結崎夢路の学祭革命 ーまかりこす! 遠野百鬼夜行ー
月見 夕
Entry number.1 遠野の赤河童
第1話 早池峰祭実行委員会へようこそ
四月一日、遠野大学は来るべくして来た春に沸いていた。
桜舞う大学の正門を、
「そこの女子ー! テニスサークルどうすかー!」
「いいっす」
「映画研究部! ひと夏の青春を僕らとどうですか!」
「けっこーです」
「そこの可愛い君! 今なら即戦力でマネージャーなれるよー!」
「間に合ってまーす」
仮装し手持ち看板を振って気を引こうとする上級生達の誘い文句をものともせず、何なら目すら合わせず、夢路は堂々たる歩みを緩めない。
パーカーにジャケットを羽織った彼女は厚着し過ぎたなと少し後悔しつつも、膝丈のスカートから伸びる脚は構わず猛然とある場所へ向かう。向かい風で露わになった両耳には金銀鮮やかなリングピアスがいくつも輝いていた。新入生とは思えないバンギャ顔負けのピアス量に、夢路の腕を引こうとしていた男子学生は思わず二度見する。
「二号館三〇一教室……あっちか」
多くの新入生達がサークル勧誘の熱気に呑まれる中、彼女の行き先はもう決まっていた。
「たのもー!」
夢路は古い板戸を勢い良く開いた。扉の先には既に数人の先客がいたが、入って来た彼女に気を取られる事なく何やら揉めているようだった。
「いい加減諦めたらどうなの!?」
「俺はどこにも所属するつもりは……」
「怖くないよー大丈夫だよ新入生くん」
「新人よ、早く決めた方が身の為だぞ」
「あんたはいつの間にいんのよ!」
椅子に縛られた黒シャツの新入生と思しき男と、その胸倉を掴む女。その周りで男と女が一人ずつ囲み騒いでいるようだった。束縛され窮地にいるらしい茶髪の男は、入口に立つ夢路の姿を見るや否や必死に叫んだ。
「あ、ほら! あの人そうじゃないですか!? 真の入部希望者!」
頼むそうだと言ってくれ、とでも言いたげな瞳を夢路に向ける。
彼女はそれをとりあえず無視して半歩教室から出て、今しがた開いたばかりの扉の張り紙を確認する。確かに『学祭実行委員会』とある。間違いないようだった。
「ここって学祭実行委員会っすよね? 何すか? 拉致会場なんすか? ここ」
「そうよ! そうだけど違うわ!」
「どっちだよ」
新入生の胸倉を放した女が、長い赤髪を靡かせヒールをツカツカと鳴らして歩いて来た。タイトなニットが身体の凹凸を強調している。
胡散臭そうに見る夢路の目を負けじと見返しながら、赤髪の女は堂々と言い放った。
「ここは遠野大学学園祭――
「ええ……こいつが実行委員長……」
「こいつとは何よ! 文句あるなら出ていきなさい!」
「行くなー! 俺を助けてくれ!」
夢路に、縋るように茶髪男が叫ぶ。彼女を追い出そうとするアリスに、金髪の女子学生は肩の長さの髪を弄りながら声を掛けた。
「えー、せっかくの入部希望者じゃない、アリスちゃん」
「女子はもう私と琴子がいるから良いの。必要なのは男手よ!」
琴子と呼ばれた清楚なワンピースを纏う彼女は小首を傾げる。
「とは言え四人でもなかなか厳しいんじゃなあい?」
隣の黒髪眼鏡の男もネルシャツの腕を組み、長い前髪を掻き分け追従する。
「そうです、人手は多いに越したことはない。貴重な人ばし……人員です」
「おい今人柱って言っただろ」
不穏な単語を夢路は聞き漏らさなかった。考える素振りをするアリスに、夢路は腕組みして畳み掛ける。
「いーじゃん、人足りなさそうだし。あたしが入ってやるよ」
「何で上からなのよ! 決定権は実行委員長の私にあるわ!」
「一年ちゃん、こっちにおやつあるわよ。入ってらっしゃい」
「わーいあざーす」
「聞きなさいよ!」
お菓子で手招きする琴子に従って夢路は易々と教室に入り、アリスは地団駄を踏んだ。
「ああ、ミイラ取りがミイラに……」
貰ったばかりのクッキーを頬張る夢路の隣で、茶髪の男は力無く項垂れる。
「まあまあもう諦めなさいって。一度足を踏み入れたからには秋の学祭まで働いてもらうわよ」
「何すかその底なし沼仕様……」
琴子は気にせず、思い出したように自己紹介を始めた。
「あ、そうだ。私ね、法学部三年の
「文学部二年の
傍で立っていた黒髪の男はキリッと眼鏡をかけ直す。切れ長の瞳が一年生二人を捉えた。夢路を追い出す事を諦めたらしいアリスが呆れたように総司郎を見る。
「あんたも勧誘した覚えは無いけど、まあいいわ。こうなったら来る者拒まずよ」
彼女は椅子に縛られたままの男を見下ろし、
「ほら、あんたもさっさと名乗んなさい」
そう促した。茶髪の男は観念したように口を開く。
「
「学部は?」
「……法学部一年です。あの、せめてこれ解いて下さい……」
「あら、私と一緒。よろしくねえ」
無情にも晴臣の要求は無視して微笑み、琴子は夢路に向き直る。
「最後に、ひとりで魔窟に足を踏み入れた勇気ある一年ちゃん。お名前は?」
夢路は白い歯を見せ、元気に自己紹介した。
「
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