第23話 Jkに踏まれたいは普通に事案じゃない?


「……ねえ、紗季」

「どうしましたか」

「なんか最近、妙に『異獣エネミー』の出現が多くない……?」


 平日の夜。

 リビングで紗季と並んでテレビを見ていた俺は、ため息と一緒に感じていたことを呟いた。


 というのも、だ。


 俺が『魔法少女』としての活動を始めてから早半月、『異獣エネミー』と戦った回数は両手では足りない。

 これは極めて多いのだとクーが言っていた。

 もちろん波はあるけど、普通はもっと少ないらしい。


「ですね。幸いなのは高ランクの『異獣エネミー』が出てきていないことくらいですけど……確率論的にはいずれ出てきてもおかしくはありません」

「そのときは結界を出て、クーが他の地域から『魔法少女』を派遣してくれるのを待つんだっけか」

「『異獣エネミー』が万が一外に出ては被害が広がる恐れがありますからね」


『魔法少女』が『異獣エネミー』と戦う際に張られる結界は出入りが自由だ。

異獣エネミー』は内部に閉じ込められるが、いつまでもそうしていられるわけではない。

 クーの力にも限度がある。


「この近辺を担当している『魔法少女』は他にも数人いますが、全員がCランク以下なので、戦力的には私たちとあまり変わりません。というか、一番強いのは紬でしょうね」

「……『魔法少女』になって半月の俺?」

「そうです。実際、この前のCランクの『異獣エネミー』も一撃で倒していたじゃないですか」

「それはまあ、そうなんだけどさ。他の『魔法少女』の戦いなんて動画でしかほぼ見られないし」


 これでも一応、動画で『魔法少女』がどんな風に戦っているのかを見て学ぼうとはしていた。

 当然持っている『魔法』や考え方は違うけど応用できる箇所もあるから、損にはなっていないと思いたい。


「あ」

「どうしたんですか」

「SNSとか掲示板で俺のことも話題に上がってたりするのかなーって、なんか今更思い出した」

「そのことですか。率直に言うと、見るのはあまりおすすめしませんよ」

「誹謗中傷が書き込まれてるかもしれないからってこと?」

「それもありますけど……紬が見たいのなら見て見たらいいと思います。多分後悔すると思いますけど」

「逆に見たくなるやつじゃん。なら、ここで一緒に見ようよ」


 好奇心につられて紗季に言うと、渋々といった表情を作りながらも頷いたので、まずはスマホで『魔法少女』関連の掲示板を探し、ページを開く。


 すると多数の『魔法少女』関連の掲示板が表示され――その中に『【C級魔法少女・梼原紬】専スレ・7』と題名が打たれたものを見つける。

 いや、ちょっと待って?

 まだ『魔法少女』になってから半月なのに、なんで個人の掲示板が作られてるの??


 しかも『7』ってことは、この板は七回目……ってこと?


「……個人スレってこんなに早く出来るものなの?」

「これは早すぎです。私も一応ありますけど、二年目なので」

「そっかあ……」


 少しだけ中を見るのに怖気づいてしまいそうになったけど、ここまで来て引き下がっては男が廃るというもの。

 意を決してそのタイトルをタップし、ページを開いた。


 ■


『【C級魔法少女・梼原紬】専スレ・7』


 1 匿名市民

 テンプレ

 〇〇市C級魔法少女・梼原紬の専門スレです

 誹謗中傷・対立煽り・スレチなど禁止

 前スレ『【C級魔法少女・梼原紬】専スレ・6』

 https://xxx.xxx

 次スレは>950が立ててね


 2 匿名市民

 おつ


 3 匿名市民

 おつ


 4 匿名市民

 乙


 5 匿名市民

 乙かりー


 6 匿名市民

 にしてもC級はえーな


 7 匿名市民

 まだ半月で専スレマジ?


 8 匿名市民

 前例を見るならS級コース


 9 匿名市民

 流石にS級は早いでしょw 

 、、、早い、よね?


 10 匿名市民

 気が早すぎだろこの調子でS級なったら伝説だろ


 11 匿名市民

 レジェンドはいつの時代もうまれるもんだけどな


 12 匿名市民

 てかさ、強さとか正直どうでもよくて


 紬ちゃんめtttttttっちゃ可愛くない????


 13 匿名市民

 >12 

 わかるマン

 可愛いんだけどちょっとかっこいいみたいなところある気がする


 14 匿名市民

 あの銀髪いい匂いしそう


 15 匿名市民

 >14

 hentai?


 16 匿名市民

 >14

 通報しました


 17 匿名市民

 >14

 またお前か髪フェチ別スレにもいたの見たぞ


 18 匿名市民

 >17

 やべばれた


 19 匿名市民

 いいたいことはわからんでもない

 まあ髪はいいよ


 その代わり俺はあのちっぱいを貰うッ!!


 20 匿名市民

 は???????渡さんが?????????紬たんのおっぱいは俺のものだぞ


 21 匿名市民

 変態コワ、、、


 てことでワイは紬ちゃんのまっしろですべすべなhtmmを


 22 匿名市民

 誰のものでもねーよほせ


 ま、紬は俺の隣で寝ているんだけどねw


 23 匿名市民

 変態共はおいておくとしても紬ちゃんが可愛くてかっこよくて強いのは非常にわかる

 あとさ、ちょっと男勝りな仕草があるの良くない??


 24 匿名市民

 エネミーの血が顔についても気にせず手で拭うところとかな


 25 匿名市民

 絶妙に少年っぽさあるのに笑顔はアイドル並みの破壊力なのすげーよ


 ワイは初戦闘のときに見て一目惚れしました


 26 匿名市民

 俺もあんな美少女に微笑まれたい人生だったわ、、、


 27 匿名市民

 >26

 涙拭けよ


 28 匿名市民

 俺は踏まれたいわ

 ああいう純粋っぽい女の子に限って結構Sっ気強かったりするんだよなあ


 29 匿名市民

 なにこれ変態しかいないじゃん、、、


 あ、公式が出してる紬ちゃんのコスプレブロマイド最高です


 30 匿名市民

 おめーもじゃねーか


 俺もブロマイドコンプしてるけど当然だよなあ??


 ■


「……なにこれ」

「だから後悔すると思いますけど、と言ったじゃないですか」

「いやまあ見たのは自己責任だけど……そっか。いや、うん、思想は自由だと思うよ? こっち側が受け止められるかは別問題としてさ……」


 どうしたらいいのかわからない光景を目にして混乱した脳を落ち着けるように、スマホの画面から目を離しながらため息をつく。


 そうだった……『魔法少女』のスレって基本的にこういうのだった。

 長らく見てなかったから忘れていたけど、スレで語られる対象に自分がなった今、なんとも言い難い気持ちになってしまう。


 あと、踏まれたいって言ってたやつは素直にやめていただきたい。

 公開されてるプロフィールに年齢は書いてあるから俺がJK——そうか俺JKか。

 なりたくてなったわけじゃないけど、Jkに踏まれたいは普通に事案じゃない??


「紬のは好意的な意見ばかりですからいい方ですよ」

「好意的というか若干名変態が混ざってる気がするけど……?」

「どこの『魔法少女』スレも似たようなものなので諦めてください」

「てことは紗季も?」


 単純な疑問を口にすると、なぜか紗季は気まずそうに視線を逸らしながら、


「……私のは、ある意味当然のことしか書かれていません。ですが、できれば見ないで欲しいです」

「? わかった。ちょっと気になるけど、見ないでって言うなら見ない」

「…………そうですか」


 胸に手を当て、露骨にほっと息をつく紗季。

 一体何が書かれているのかと気になりはするけど、見ないと言った手前、調べることはないと思う。


「というか、やっぱり『魔法少女』って大変だね。『異獣エネミー』とは戦うし、アイドルみたいなこともするし、SNSとか掲示板で好き放題言われるし。メンタルやられてやめる人がいるのもわかる気がする」

「紬はちゃんと自衛をして、ダメそうなら私に相談してください。少しは力になれるはずです」

「紗季もだよ。頼りきりは良くないし、俺も紗季の力になりたい」

「紬は優しいですね。であれば、明日は家具を買いに行きませんか? ソファーとかはあった方がいいな、と最近思い始めてきたので」

「ん、いいよ。たださ、なんか明日も『異獣エネミー』が来そうな感じがするのは気のせいかなあ」

「……仕方ないと割り切りましょう。私たちは『窕門ヴォイドゲート』の発生を制御できませんし」

「だね」

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