『万物両断』のTS魔法少女は、絶望すらもぶった切る

海月くらげ@12月GA文庫『花嫁授業』

第1話 『魔法少女』

お久しぶりです。カクヨムコンで何書こうかな~~~~~って書いては消し、書いては消しを繰り返していたら沼に嵌ってこんな時期になっていました。というわけで前に投稿していた魔法少女をどうにかしようと思い立ったので、新しい枠で投稿します。前のに修正を加えているので、よかったら読んでいただけると嬉しいです。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「……いつになっても落ち着かないなあ、この格好」


 しみじみと呟きながら見下ろす自分の格好は、まるで白い花のようだった。


 首元に細い青のリボンが飾られた白い長袖のブラウスと、同じく白い膝上十センチ程度しか丈のないスカート。

 どうにも露出的な防御力を鑑みると頼りない脚を守るように穿かれたニーソックスとスカートの布地が織りなす絶対領域には、今日も眩しいくらいの白い肌色が覗いている。

 底の薄いミュールの調子を確かめるように軽くつま先を鳴らす。


 かつてはこの格好を見られるのに途方もない恥ずかしさを感じて蹲っていたはずなのに、今では平然とした顔を繕っていられるのだから、人間の慣れは怖い。

 見られることへの羞恥心がないとは言わないけど、そこを気にするよりも先に意識するべきものがあるのだ。


「紬。今日の敵はアレ一体みたいですね」


 隣からかかったのは涼やかな声音。

 振り向けば、そこにいるのは艶のある黒髪を肩口で揃えている少女だ。


 着こんでいるのはとは正反対な、黒一色の衣服。

 軍服ワンピースと呼ばれるそれは可愛さとかっこよさが両立したデザイン。

 前で光る三つの金色の大きなボタンがアクセントになっている。


 風に揺れたスカートが花開いて露わになる右の太ももに巻かれたガーターリングと、そこに収められた三本のナイフ。

 その一本を抜きとり、彼女は逆手で構えた。


「紗季……もしかして、足りないと思ってるの?」

「私はバトルジャンキーではありませんよ。ただ、紬ならすぐ倒してしまいそうで、私の出番がなさそうだと思っただけです」

「それをバトルジャンキーって言うんじゃないのかなあ……」


 相棒である紗季に対して呆れたように呟いて、俺も自分の腰へと手を伸ばす。


 そこにあるのは、純白の鞘に納められた一振りの直剣。

 まるで恰好には不釣り合いな剣の柄に、そっと手を添えて引き抜く。


 現れるのは鏡のような剣身。

 自分の髪と同じ白銀のそれを、正中線に構える。


 二人で向く先にいるのは――一軒家ほどの体躯がある大蜘蛛。

 異常に発達した蜘蛛の額には、赤黒い結晶が埋め込まれていた。


 それこそが人類の敵……『異獣エネミー』である証。

 空に生まれる裂け目『窕門ヴォイドゲート』を潜って異界からやってくるそれは、建物を壊し、人を襲う。


 だから、人を守るために俺たちが……『魔法少女・・・・』がいる。


 がこうなったのは一月ほど前のこと。


 そう。


 何を隠そう……俺はこんな姿になっているが、元々、男として生きていたのだから。


 ◆


「ははっ……冗談だろ? 朝起きたら女の子になってるとか、さ」


 半笑いのまま鏡の前で呟いたそれは、嘘でも虚言でも、ましてや妄想でもなく――現実で俺の身に起こった変化だ。


 鏡に映るのは白銀色の長髪の、女子としては少し高めな身長の女の子。

 顔は間違いなく可愛いと評価してよく、長い睫毛に彩られた瞳は空色。


 日焼けなんてしていない白い肌は柔らかく張りがあって、とても肌触りがいい。

 寝間着として使っていたTシャツはサイズが合わずに左肩がズレてしまっていて、しかも小ぶりな胸がちょっとだけ見えてしまっている。


 男としては興味がなくはないけど、自分のものと考えると微妙な気持ちになってしまう。


 まあ、とにかく――記憶が正しければ、昨日寝るまで俺は確かに男だったはず。

 なのに、朝起きたら女の子。


 もちろん夢じゃないかと一通り当たってみた。

 二度寝して頬を抓って、それでも戻らないから本当に女の子なのかと疑って胸も触ってみて――って、これは必要だからしただけ。


 ……まあ、全く興味がなかったとは言わないけど。

 感触? なんか、すっごい柔らかかったです、はい。


「いやさあ……それって、要するにそういうこと・・・・・・だよなあ……」


 ため息をつけば、鏡に映る女の子も同じくため息。


 男が女の子に変わるのには理由がある。


「とりあえず、今日一日は検査かな。はあ……どうしてこんな面倒なことに。ただでさえ、一人で大変なのにさあ」


 両親は数年前に事故で死んでいる。

 運よく生き残った俺は保険金をやりくりして高校に通っているが――まさか、こんなことになるとは思っていなかった。


 俺はスマホでこういうときの手順を調べ、外出の支度を済ませ、電話をかける。


『――もしもし。こちら『魔法少女管理局』です。どのようなご用件でしょうか』


 電話がつながると、向こう側から聞こえてきたのは女性の声。


「すみません。朝起きたら女性化してしまったのですが……」

『了解いたしました。お名前とご住所を窺ってもよろしいでしょうか』

「名前は梼原ゆすはらつむぎ。住所は○○市の――っ」


 そこまで口にしたとき、突然、外からけたたましいサイレンが響いてくる。


 思わず身体に走る震え。

 俺はその音が意味するものをよく知っていた。


『警告。『窕門ヴォイドゲート』の発生、および『異獣エネミー』の出現を確認しました。市民の皆様はシェルターへの非難をお願いいたします』


 街に設置された警報機から告げられたアナウンスにつられて窓の外を見れば、平べったい魚のような生物が空を泳いでいるのが見えた。

 だが、魚ではない。

 その身体からは細長い触手のようなものがうようよと伸びている。


 端的に言って、とても気持ち悪いビジュアルをしていた。


 それは『異獣エネミー』。

 別の世界から『窕門ヴォイドゲート』を通ってこちら側の世界にやってくる侵略者。


 そして、『魔法少女』が戦う敵。


『梼原さんっ!? 今すぐシェルターに非難をしてくださいっ!! すぐに『魔法少女』が向かいます!!』

「あー、そうしたいのは山々なんですけど……なんかこっち見てる気がするんですよねぇ……」


 魚の目と窓越しに視線がぶつかったまま、気のせいであってくれと思いながらそう言う。

 だけど……どう見ても、俺に狙いを定めてる感じがするんだよなあ。


 触手も窓の方に全部伸びてきてるし、段々魚が近付いてきてるし。


 逃げないとダメなのは頭ではわかっているのに、なぜか身体の方が動いてくれない。


 足が竦むってこういうことなのか、なんて妙に冷静な頭で考えていると、急に目の前の空間が歪み――


 いつの間にか、見知らぬ少女が立っていた

 彼女は軽く振り返り、その顔が露わになる。


 肩口ほどで揃えた黒髪と、どこかの学校の制服。

 あどけなさを残しながらも整った顔立ちをしていて、身長は今の俺よりも少し下。

 俺を安心させるためなのか浮かべた微笑みは、ひっそりと咲く花のようで。


「梼原紬さん、ですね。無事で何よりです。私は『魔法少女』……叶紗季。アレを倒して、あなたを保護するために来ました」


 彼女……叶紗季はちらりと魚を一瞥してから、俺へ告げた。


――—―――――――――――――――――――――――――――――――――――


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたらフォローと★を頂けると嬉しいです!執筆の励みにもなりますので是非よろしくお願いします!

しばらくの間は一日二話更新(朝昼)になると思います!今日は18時過ぎにもう一話更新します!

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