第735話 クロスステッチの魔女、市をうろつく

 モチを売ってくれると言うので、普通の味を4個、豆入りを2個買ってみた。思いがけない出費とはいえ、珍しい物を食べるのだったらきっと悪くはないだろう。外で色々な料理を食べてみるのも好きだけれど、家で籠っている間に食料にいいかもしれない。


「もし東に来ることがあったら、他にもいろんな料理があるから食べてみて頂戴」


「そうしてみるわ。豆って、世界が広いのね……」


 豆入りのモチなんて、ルイスやみんなが食べておいしいって言わなければ頼まなかったと思う。カチカチの硬いモチを四角い塊でもらい、長細い葉に包んでもらった。これを火で焙ったり、汁物に入れたり、豆の汁や粉をまぶして食べるらしい。あんまり硬いこのモチと食べさせてもらったモチが同じに見えないけれど、干し肉や干し野菜を戻した時と同じようなものなのだろう。それにしても、柔らかく戻るものだけれど!


「こちらで食べるなら、汁物に入れるのがいいかもしれないですね。柔らかく煮て、野菜やお肉と一緒に塩の効いた汁にするのがいいんじゃないですかね」


「あ、おいしそう! 帰ったら早速やってみないと」


 塩は確か、家に切り出した岩塩の塊があったはずだ。あれを大目に使って、贅沢に作ってみてもいい。家にある野菜や干し肉のことを思い出しながら、どう作るかを考えていた。


「いい物を聞いたわ。ありがとう」


「いえいえ。モチを広める、いい機会になったので。もしよかったら、他の魔女にも宣伝してみてくださいな」


 彼女がそう言って笑うので、私も笑い返した。


 お腹が満たされたいい気分で、《魔女の夜市》を歩くのを再開させる。小さな靴、硝子細工、魔法の植物が並ぶ店や、空中の球体に魚が泳ぐ店……。様々な店に立ち寄り、あれやこれやと眺めたり買ったりした。

 例えば、珍しい石のような実をつける小さな木。例えば、透き通った生地の布が一巻き。例えば、それと同じキラキラした糸が一巻き。靴につける、花を象った石の飾り。


「沢山見つかりましたねえ、マスター」


「本当はお財布と場所さえ許せば、ああいう物も欲しかったんだけどね。さすがにね」


 私が指さしたのは、植物屋の目玉商品だった。綺麗な石鹸泡のような実をつける、珍しい魔力のある木。大きく育つし、珍しいので、かなりの高値がついていた。細々と買い物をしてしまった後だけれど、何も買っていなかった頃だとしても、さすがに高くて買えないほどの値段がついている。


「あの実、魔法にも使えるし、おいしいらしいのよね」


「それは……気になりますね」

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