第723話 クロスステッチの魔女、様子見をする

 それからしばらくの間、私は四人が出かけるのをのんびりと見守ることが増えた。紅茶を淹れたり、日用のことはしてくれている。だから空いた時間で彼らが何をするかは自由で、四人がお出かけにハマったのならそれはそれで、と見守っていた。私が好きに読んでいいと言った通り、拾ってきた植物や鉱石の正体を調べようと本を開く姿もよく見る。


「マスター、マスター、これ、マスターはお使いになれますか?」


 ルイスが石綿を拾ってきた時には、近くにそんなものがあったのかと驚いた。頷くと、私の手に石綿を乗せてルイスはニコニコとしていた。


「石綿自体が、炎に対して強いんですって。集めて布を織ると、魔法を込めてなくても、炎の中では燃えづらくなるとか」


「なるほどー」


 ルイスは「差し上げます!」と笑っていたので、これはありがたく受け取ることにした。

 アワユキやキャロル、ラトウィッジも色々な物を拾って来ては、ああでもないこうでもない、と首を捻っているらしい。


「あの子達は、ずっと何を探しているの?」


「アワユキの拾った石が何か、うまく正体が暴けずにいます。似たような説明文の石が、三個も四個も出て来て……」


「あー……」


 私自身も、よく混乱した覚えがある。何個もある中でどれが正しいのかわからず、たまに、魔法がうまく発動しなかったことで、違う石だとわかったりもしたものだった。


「僕たちは魔法を作れませんから、見てるだけとはいえ……ちゃんとやっぱり、特定はしたいですから」


「私も手伝おうか?」


「いえ! 僕たち自身の手で、やらせてください」


「わかったわ。でも、危なそうな物を扱ってたら、流石に問答無用で取り上げるからね」


 私の手がかぶれるようなものも、ルイス達の陶器や毛皮の手ではかぶれることはないだろう。それでもまあ、危ないものがないわけではないので、そこはもう一度忠告しておくことにした。ルイスも頷いてくれたので、私も「わかればよろしい」と頷くことにする。


「そういえばこの間、面白い物を見つけたんです。ネバネバした草で、僕の指を挟んできたんですよ」


「ハエトリグサかな? それ、すぐ取れたわよね?」


「はい、もちろんです」


 さらっと危ない目に遭いかけていた。私は、ルイスに「本当に気をつけるんだよ」と念を押しておく。アワユキ達にもそういうことがなかったか、一度聞いておかないと。


「心配になってきたなあ……」


「大丈夫です、危なかったらすぐにお話しします!」


「本当……?」


 やや、不安の残る会話となってしまった。

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