第722話 クロスステッチの魔女、夜の採取をする
私がみんなの様子を見守りながら採取していると、いつの間にか日が翳ろうとしていた。あっという間に夜の足音が近づいているけれど、せっかくなので、このまま彼らがどうするか見守ることにする。これは、単純な興味だった。
「あっ、いいの見つけた!」
そんなことを考えている間も、木の幹に絡んでいた蔦の先端を切って自分のものにする。これは水に晒して繊維を取ると、綺麗な薄緑色の糸になる。本で読んだことはあったけれど、こんなところに生えているとは思わなかった。しばらく必要な予定はないから、手のひら分だけ切っておく。
「マスター!」
「もうお日様がさよならしちゃうの!」
「もうちょっと探していてもよろしいかしら?」
「魔法で危なくないようにはしますから!」
四人が走ったり飛んだりして声をかけてきた様子に、私は頷いた。私自身も《夜目》の魔法を使いながら、もう少し森にいることにした。ここは他の魔女達が魔物を狩っているのもあって、かなり軽装でのんびりと歩いても問題がない。
「さすがに、月が一番上に来る前には帰るわよー」
「はあい」
「わかりましたー」
そんなことを声かけすると、間延びした返事が返ってきた。夜は夜で、夜にしか咲かない花があったり、星や月の光を蓄えて光る石がある。もちろん、すべてを狩り尽くさないようにとは教えてあるから、それら全部を持ち帰れるわけではない。この森は、私だけの森ではないから当然のことだ。
光る石を拾い、銀色の葉を一枚摘み取り、あれやこれやと考える。これから何を作るかは、今、パッとは思いつかなかった。だから、必要なものを摘み取るというのとはできない。必要そうなもの、これから使う可能性が高いものを集めて袋を満たしている間、ふと上を見上げると月がかなり枝の、上の方に来ているのがわかった。
「みんなー、そろそろ帰るわよー」
「「「「はーい」」」」
いいの採れたかしら、なんて本当は聞きたいのだけれど、そうしたらこの子達は、自分のために採った物を私に差し出してくるかもしれない。そんな感じがしていたから、私は詳細を聞かなかった。みんなは聞いて欲しそうな顔をしているけれど、ぐっと心を鬼にする。私が欲しい《ドール》は意思ある存在であって、ただ私に盲目的に従う存在が欲しいなら、《核》なんて入れてないのだ。
「マスター、帰ったらお紅茶を淹れますね」
「すごーく楽しかった! やってるのは、いつももそんなに変わらないのに!」
「ええ、いい経験になりましたわ」
「またやらせてください」
本当に楽しそうに言うから、私も「いいわよ」と返事をするのであった。
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