第717話 クロスステッチの魔女、お話を最後まで聞く

 ……ルイスの物語は続いた。魔女に渡すべき物を渡した娘は、継母からの頼みも魔女に伝える。それは、継母が連れてきた妹の、婚礼のためのドレスを縫って欲しいという依頼だった。上の娘がまだ、嫁に行くことも婿をもらうこともしていないのに。


「魔女はその話を聞き、本来なら先に婚礼を挙げるのはお前だろうと娘に言いました。娘は悲しい顔をして、『そんな相手もありませんから』と言います。しかし本当は、かつて言い交わした若者がいたのです。彼は街に出稼ぎに行き、帰ってきてはおりませんでした」


「それでそれで?」


 意外なことに、アワユキがその話に食いついた。色恋沙汰は、精霊には面白いのだろうか。


「魔女は対価を受け取ってしまったので、渋々といった顔でしたが、継子のための服を作ってくれました。それは雲のように白く、羽のように軽いドレスで、継母と継子は大喜びです。そのドレスを魔女に縫わせるための、娘に持たせた上等な葡萄酒などは、娘の亡くなった実母の財産から支払われました。それを娘が知ったのは、妹の婚礼の日の朝のことです。家事を押し付けられ、ご馳走を食べることもできずにいた彼女の元に、魔女がやってきました」


 ルイスがここで、少し言葉を切った。こんな場面で魔女が来るなんて、何があったんだろう?と私は続きが気になってしまう。


「魔女は言います。『お前、魔女の弟子になる気はないか。この家を出て、魔女の弟子として長い時間を生き、美しいモノに囲まれて暮らす暮らしに興味はないか』と。娘は悩みました。もちろん、気がかりなのは言い交わしていた若者のことです。継母には当然として、父にも言えなかった彼のことを、娘は魔女に打ち明けました。魔女はその話を聞くと、洗い物をしていた娘の手を取ります。

 『ならば、あたしがその男の元に連れて行こう。男がお前をまだ思っているのなら、お前は彼の元に行くが良い。しかし、忘れているのなら、お前はあたしの弟子になれ』

 娘はその言葉に頷くと、魔女は魔法で娘を見えなくしてから、簡単に数日の距離を飛んでしまいました。大きな街にはできたばかりの小間物屋があり、そこには娘の待ち焦がれた青年が働いています。その腕には、見覚えのある腕輪がしてありました。娘の贈った、赤く染めた草を入れて編んだ腕輪です。魔女はお客のフリをして、若者に腕輪のことを尋ねます。若者は笑って、『これは故郷に残してきた恋人からの贈り物です。この店が軌道に乗ったら、彼女を迎えに行くんです』と答えました」


 娘は若者と幸せになれそうな予感に、私は少し微笑んだ。やっぱり、お話は幸せな終わり方の方がいい。


「魔女は自らの勝負に負けたことを認め、若者に娘を与えました。そして二人の婚礼の日には、継子に縫った物より上等なドレスを贈ったといいます」


 それから二人は故郷に帰らず、幸せに暮らしました。そう言って、物語は終わった。

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