第699話 クロスステッチの魔女、銀の指に困る

 銀色になった指を、窓から入り込む陽光に翳してみる。眩しかったので、すぐにやめた。


「マスター、それ、痛くないんですか?」


「まったく痛くないし、今の所、動かしにくいとかもないのよね……」


 とはいえ、このままでいいかというと、多分そうではないだろう。流石に水晶を出してきて、お師匠様に聞くことにした。


「お師匠様ー、クロスステッチの魔女です、キーラです」


『どうしたんだい、突然。何かまたしでかしたのかい?』


 うーん、バレてる。というか、私がこうやって連絡を入れるのは何かしでかして困った時だけだと思っているのかもしれない。……あれ、本当にそうかも。近況報告とかするなら、作ったもの持って直接行く方が早いしなあ。


「実は、指がうっかり染まっちゃいまして。この通り、綺麗に根元まで銀色に」


『……何でしでかしたんだい』


「銀月の実を搾ってました」


 私の言葉を聞いたお師匠様が、はあとため息をついた。かと思うと、その姿が水晶から消える。直後に家の扉がひとりでに開く音がして、そちらを見るとお師匠様がいた。どうやら早々に、《扉》で来てくれたらしい。本当に便利な魔法だ。


「この、馬鹿弟子! 手をお見せ!」


「あっお師匠様、洗ってみたんですけど全然取れなくて……」


「あんたのことだから水だけだろう、石鹸も使うんだよ!」


 確かに水でしか洗ってない。石鹸は体をお風呂で洗う時に使うものだろうに、お師匠様はそう考えていないようだった。弟子の頃は石鹸で手も洗わされたけど、自分で買おうとしたら高かったのでやってない。

 とりあえず石鹸で洗ってみたけれど、やっぱり落ちなかった。相変わらず、私の人差し指は銀色にぴかぴかしている。


「これ、落ちますかね……?」


「しばらくは無理だね」


「今夜から魔法を作ろうとしてたんですが」


「その銀色の指、次の新月に色を抜かないと一年はそのままだよ」


 魔女らしくはあるかもしれないけれど、指の銀色というのがそれなりに光を反射する光り方をしているのだ。正直、一年もこんな指をしていたくない。叶うなら、さっさと色を元に戻したい。


「お師匠様、戻し方教えてください! あと、今夜から《堅牢な守護》を作ろうと思うんですが、始めて大丈夫ですか?」


「魔法はまあ……とりあえず、満月の力を蓄えるのはやってもいい。作るのも問題はないだろうけど、指が染まった魔女の中には指が固まったと言うのもいるから、気をつけるんだよ」


 くれぐれもね、とかなり念を押されてから、お師匠様は私に指の色を戻すための儀式を教えてくれた。

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