第687話 中古《ドール》、糸紡ぎの様子を見る
マスターの手の中で、糸車がぶんぶんと太っていく。綿の塊が糸になる理屈はやっぱりよくわからなくて、マスターも知らないようだった。まとめて台に乗せられていたはずの綿の塊はみるみる痩せていって、紡錘がみるみる太る。
やり方を教えてもらったし、覚えている。けれど、どうしてもこれ自体が、ひとつの魔法のようだった。
「すごぉい……」
「ラトウィッジも今度、マスターにやり方を教えてもらいましょうね。そしたら僕達みんな、マスターのお手伝いができますから」
一番の新入りは、その言葉に嬉しそうに頷く。本当は僕も今、困っているマスターを手伝いたかったけれど、それは止められてしまっていた。
今ある魔綿はすべて、マスターをご指名で依頼された魔女組合に納めるためのもの。だから、すべてご自分で作られるらしい。でも終わったら、普段使いの糸を紡ぐのを手伝って欲しいとも仰られた。きっとその時は、ラトウィッジも糸を紡ぐことになるのだろう。
ぷくぷくに太りきった紡錘は一度外され、鋏で糸の端は切られる。それを次の紡錘に結びつけたマスターは、次のかせを紡ぐ準備をした。これが糸でいっぱいになってしまえば、次の紡錘はない。なので、手を止められた際にそのまま紡錘から糸を取り外される。
「マスター、お茶いりますか?」
「そうね。じゃあ、お願いしようかしら」
お任せください、と言って、お紅茶を淹れに行く。少し高いところにある茶葉を飛んで取り、炉端の火でお湯を沸かして、ポットにたっぷりとお茶を作るのだ。キャロルやアワユキだとポットを持つのには手が小さいから、これは僕とラトウィッジの仕事になる。いい香りがしたところで蓋を閉じて、マスターの元に持っていく。
「お茶をお持ちしました」
「ありがとう、ルイス」
マスターは糸をひとかせ、結んで糸の始末をしたところで、僕の紅茶を召し上がった。それからほうと息をついて、もう一度糸車に向き直られる。
「さーて、じゃんじゃん作らないと! アワユキとキャロルは魔綿の実から中身を出して、ここにまとめておいて。ラトウィッジとルイスは、毛流れをひとつに整えておいて。そして私がひたすら紡ぐ。量が多いから、一生懸命やるわよ!」
「「「「おー!」」」」
見ていることしかできないのかと思っていたら、マスターは僕たちに色々と手伝わせてくれるらしい。僕たちはもちろん喜んで手を挙げて、マスターの助けになることならなんでも喜んでやります、と申し出ることにした。
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