第680話 クロスステッチの魔女、魔綿の量産を頑張る
魔綿の糸を三十も紡いでくれと言われても、いきなり作れるものではない。すでに使う時に色を染めようと思って残していた糸が十かせあるとはいえ、残りは二十。《魔女の箱庭》で育てていた魔綿を全部成長させたとしても、あと十かせ分は足りない。
「ええと確か、魔力で急成長させるための魔法があったはず……」
慌てて魔法の本を開く。確か、植物の成長に手を加える魔法があったはずだ。必死に本のページを手繰って探していると、しばらくして確かに見つかった。《成長》の魔法を刺繍した布をかけた植物は、すくすくと元気に、そして明らかに早く育つのだと言う。
「これだ!」
「よかったですね、マスター」
「材料、取りに行くー?」
それが一番怖い。というわけで材料を確認すると、なんとか今の家の中にある材料で、魔法を作ることができそうだった。というわけで、すぐに立ち上がって用意することにする。
「ルイス、間違ってないか読み上げて確認して。アワユキ、キャロル、ラトウィッジ、間違えて作り直している時間はないから、みんなで確認しながら行くわよ。手伝って!」
「「「「はーい!」」」」
いい子の返事をもらって安心しながら、私は立ち上がった。さっそく倉庫に走り――ラトウィッジはまだあまり慣れていないからか、半分走る鹿のような飛び方をしていた――素材を集め出した。ルイスに本を任せ、読み上げてもらう。
「まず、生成の染めていない刺繍布」
「あるある、これは絶対ある!」
「濡れた土で色を付けた茶色の刺繍糸、ええと……植物製であること、だそうです」
「魔綿って書いてある茶色い糸ならあったよー」
手分けして素材を探してもらう。この間整理したはずなのに、またごちゃごちゃになってしまっていた。今度はどうしたものか……そろそろ入らなくなってきたかもしれない……。
「あと、雨……雨露の石?だそうです。ありますか?」
「それっぽいことを書いてある、透明な石ならこの小瓶の中身ではないかしら」
ラトウィッジはアワユキとキャロルの手からそれぞれを預かり、私は大きく巻いた布を手にそれらを確認する。確かに、私の字で「土染めの刺繍糸」「雨露の石」とあった。心底ほっとする。確か、雨露の石は穴を開けるところからしないといけないから、それ用の魔鉄の錐も用意しないと。
「……よし! 気合入れて頑張らないとね」
「ラトウィッジ、マスターへのお茶の淹れ方を一緒に練習しましょうね」
「わかりました」
私が図案を写し出した様子を見て、《ドール》たちはそれぞれに動き出したようだった。
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