第673話 クロスステッチの魔女、新しい《ドール》と家に帰る
お師匠様の家に《扉》で飛び込んでから、私は箒で自分の家に帰ることにした。
「お師匠様、イルミオラ様をご紹介くださりありがとうございました」
「彼女があっさり気に入った人も珍しいから、時折構ってやって。ただし、彼女はあくまで蒐集家だから、ラトウィッジに何かあったらすぐにあたしに言うこと。いいわね?」
「はい、わかりました」
箒のクッションにルイスを座らせ、カバンからキャロルとラトウィッジの顔を出させ、首にアワユキを巻いたいつもの格好で箒に乗る。ううん、クッションを新しくするか、何かしてもいいのかもしれない。色々やりたいことの一つとして、頭の隅っこに覚えておくことにする。
「キーラさま、これからなにをするんですか?」
「箒で空を飛ぶの!」
地面を蹴って浮き上がり、空へと舞い上がる。《扉》の魔法を使えるようになったとしても、きっと私は箒で移動することは少なくないだろうと思った。《扉》で繋げてしまえば、風を切る感触も、眼下に見下ろす森や川の景色もない。ただ扉を開けて部屋を移動するように、長い距離を潜り抜けるだけだ――今回、何度か移動して思った。そんなのってつまらない!
「ラトウィッジ、平気そうなら下を見てご覧! ただし、あんまり身を乗り出しちゃダメよ」
わざとゆっくり、かつ普段より低めに飛びながら、カバンの中の新入りの様子を伺う。ラトウィッジはおそるおそる下を見て、それからかすかに目を見開いていた。ずっと下を眺めている姿に、安心する。よし、高いところは平気らしい。ダメな子だったら、カバンの中に入りっぱなしで移動してもらうしかなくなるところだった。
「すごい……」
「帰ったら、ラトウィッジ自身も空を飛べるようになる服を作らないとね。楽しみにしてて」
「よかったですね、ラトウィッジ」
「わたくし達も、みんなであるじさまのおてつだいもするんですのよ」
「アワユキおねーちゃんたちがおしえてあげる!」
るんるんと楽しそうにしている三人の様子を見て、私もついほっこりとしてしまう。これからの五人暮らしに安心して、私はゆっくりと箒を進め、自分の家の屋根が見えるところまで来た。
ゆっくりと箒を降ろして、草地の上に着地。今はずいぶん乗り慣れてきたから、当然、地面に激突しかけるようなこともなかった。普通に地面に足を下すように、とはまだ行かないけれど、軽く飛び跳ねて地面に着く時と同じくらいには、速度も改善している。
「ここが、私の家よ」
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