第668話 クロスステッチの魔女、《ドール》を起こす
「せっかくなんだから、ここで入れてお行きなさいな」
やっと決めた《核》を手にした私に、イルミオラ様はそう言ってくださった。お言葉に甘えて、《ドール》を起こすための儀式をすることにする。裸であることについては、お師匠様が解決してくれた。
「ちょっとお貸し。国によっては、布を縫わないで結んだり巻きつける服があるんだよ。服の歴史を教える時に話した、古い服の着方を好んでやっているのさ。今起こすなら、これで裸にはならないでしょう」
そう言って、私がカバンに入れていた無地の布を手に取ったお師匠様は、布をくるくると《ドール》の体に結んだ。なんだか、この姿をとても似合うと思う。あっという間に、簡素な服になる。……この服装も、急拵えの間に合わせのようにしてしまったけれど、中々どうして、よく似合っていた。裾になる部分に刺繍を入れてもいい。無性の体にドレスやズボンを着せるのもいいけれど、どちらともつかない服装も悪くなさそうだった。
私はそんな《ドール》を机の上に寝かせて、《核》を手に近寄った。ルイス達は机の上に座って、私と《ドール》を眺めている。
「新しい子が起きたら、お姉さんとして色々と教えてあげなくっちゃ」
「アワユキも! アワユキも教えるー!」
「僕も、新しい子に色々と教えるのが楽しみです」
みんな、歓迎してくれているのが嬉しいと思った。私は《核》を体に触れさせ、キャロルの時は私がやらなかったから、初めて唱える言葉を呟く。
「この《核》は汝の心、この体は汝の躰。汝ら、ここにひとつとなるべし」
石だと思っていたものは水になり、私の手と呪文でとろけて体へと染み込み、一度見えなくなった。完全に染み入った後で、《核を示せ》を唱える。それから、私の針で指をついて輝く石へ血を垂らした。最後に、今までも唱えた言葉を唱える。
「我、汝に名を与えるもの。我は汝のマスターなり。汝、我を友とし共にあるべし。汝の名前は、」
今回も、直感に委ねることにした。いくつか考えていた名前の中から、私の口をするりとついて出る名前。それは、
「汝の名前は――ラトウィッジ」
輝く核がもう一度体へと消えた後、その手足や瞼がぴくぴくと動いた。それから、目を覚ます――瞼が開かれて、色の混ざった瞳が私を見た。
「おはよう……ございます……?」
まだぼんやりとしているらしいラトウィッジを撫でてやると、嬉しそうに私の指を少し握った。その姿を見て、やっぱり使ってこそ美しいのだと確信した。
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