第660話 クロスステッチの魔女、魔法の開発の話を聞く
花嫁の喜び。復讐の怒り。それから、子供が産まれた喜びの黄色もあると教えてくれた。
「悲しみの《
「家族を亡くしたとか、何か大切なものを失った、ってのがやっぱり多いわね。それから長年の夢を事情があって挫折した、とかも。そういう時は、色が混ざったカケラが採れることもあるわ」
「色が混ざったカケラ?」
イルミオラ様いわく、色が混ざったカケラは《ドール》の《核》にはならない。現在の加工技術では難しいので、一色だけではないカケラは、イルミオラ様のような蒐集家の魔女が好んで眺めているだけになるそうだ。
「だから今は持ってきてないけれど、見てみたいなら見る?」
「この子のカケラが決まった後に、見てみたいです!」
私がそう言うと、イルミオラ様は楽しそうに頷いていた。やっぱり、話を聞いてもらえるのがお好きらしい。
「私は色混じりのカケラも大好きでね。今、実は開発しようとしている魔法があるんだ」
「まだ作ってたんかい、あれ! 研究を始めてもう百年くらいだろう?」
お師匠様が驚いた声を上げる。何かの魔法を新しく作ろうとして研究だなんて、まだ私には遠い話で、すごいことをしていることしかわからない。でも、ある程度想像をすることはできた。
魔法の開発には多大な労力を必要とする――狙って作ろうとするのであれば、特に。何か近い魔法を発展させたり改造したりする、というのは私も似たことをしてみたことはある。例えばお師匠様に教わった《パン作り》の魔法を少し改造して、魔法で出るパンの形や味をいじってみようとしたことがあった。少しでも魔法の図を変えるだけで違う魔法が出るから、と色糸を変えたり改造してみた結果、出てきたのは焦げパンが七割、黒パンが二割、パンですらないものが一割だったっけ。あの時はお師匠様が留守の間にやってしまって、隠しきれなかったパンからバレて、ものすごく怒られた。
元々ある魔法の改造でも大変なのに、一から新しい魔法を作るとしたら、その試行は膨大なものになる。難しい魔法だったら、それこそ百年でも作れないのかもしれない。
「《核》の記憶を、紙に映し出していつでも眺められる魔法を作りたくてね。《核》の記憶を読み取る魔法はあるし、元の《核》の持ち主は触れることで記憶の光景をしっかりと思い浮かべることもできる。感情の追体験も。でも、それらを人に見せたくてね」
イルミオラ様は何か、やりたいことがあるのだろう。楽しそうにしていた。
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