第656話 クロスステッチの魔女、蒐集家の魔女に会う
私達が玄関扉をおそらくくぐったことに気づいてか、奥から一人の《ドール》が小走りにやってきた。彼女は大きな石のついた髪飾りに、色の薄い金髪、そして若草の緑色の目をしている。見た目はイースほどで、白いエプロンドレスを着ていた。裾を膨らませた方が似合うだろうけれど、魔女の意向か、すっきりした影をしている。
「ようこそお越しくださいました、リボン刺繍の二等級魔女アルミラ様とお弟子の魔女様。主人が奥にてお待ちです」
「そう。機嫌は?」
「それなりにおよろしいかと」
淡々と話をした彼女が、奥を手で指し示す。私たちも、そちらへついていくことにした。
「久しぶりね、アルミラ。それからそっちが、《核》を欲しいって言うあなたの弟子?」
「クロスステッチの三等級魔女、キーラと申します」
目いっぱい丁寧に頭を下げてから、改めて魔女の顔を見る。
《ドール》に負けず劣らぬ真っ白な、日を浴びていない肌。灰色の瞳と、長い黒髪の持ち主だった着ているのは裾や袖にフリルのついた、少し腰回りが膨らんだ形状のドレスで、その上から白い上衣を着ている。あまり見ない形だと思ったから、後でお師匠様に聞いてみようと頭の片隅に書き留めておく。服の流行はわからないし、私はあんまり締め付けるような服は苦手なのだけれど、彼女の服装はあんまり悪くないと思った。
「あたくしは、硝子細工の二等級魔女イルミオラ。そこの《ドール》はエリーよ。ようこそ、アルミラの弟子。お辞儀のやり方は、もう少し練習が必要ね」
「よく言われます……」
薦められるままに、ふわふわとした薄紫色の布張りの椅子に腰掛ける。中にしっかりと綿の入った、座り心地のいい椅子だった。エリーが持ってきたポットは陶器ではなく、硝子製で、中の紅茶の色を透かして赤くなっている。
「それで、わたくしの持っている《核》や心のカケラを貰い受けたいというのはどんな子なの?」
「は、はいっ、名前はまだ決まってませんが、この子です」
私がそう言ってカバンから取り出して見せたのは、例の新しい《ドール》だった。目を開いてはいるけれど、その中に魂はない。ただ、その綺麗な瞳を晒しているだけの姿。やっぱりこの姿を見ていると、少し、あの店にいた時のルイスのことを思い出した。目を開いているが何も見ていない、まだ消された名前の代わりがないから、《核》も眠っていた《ドール》。
「お借りしても?」
その言葉に頷く。イルミオラ様は興味津々といった顔で、《ドール》を受け取った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます