第653話 クロスステッチの魔女、組み立てる

 ルイスが用意してくれたお茶菓子を、メリンダ様がつまむ。今日はほんのり甘いクッキーだ。


「《核》は何を入れているんです?」


「いえ、まだ決まらなくて」


「瞳が入ることで、決めるきっかけになるといいのだけれど」


 私は曖昧に笑うだけにした。多分、また迷う気がするから。どうも選択肢が多いと、私は迷いすぎる嫌いがあるらしい。


「また迷うと思います。ルイスは《核》も元々入っていた子なので、中古でもこの子を選んで正解でした。この子に決めてさえしまえば、全部揃っていて迷いませんから。運命の出会いに違いないです」


「そう思っていただけたならよかったです、マスター」


 ルイスが机の上にティーポットを置き、かなりお上品に一礼する。その姿に、メリンダ様は「まあ」と少し驚いたような声を上げた。


「少し古めかしいけど、ちゃんと礼儀を学んでいますのね。《付加珠オプション・ジェム》で?」


「そうだとしたら、先代の持ち主かと。私は、何もしておりません……でも、私より読み書きがうまいんですよ」


「自慢の子ですのね」


 《付加珠オプション・ジェム》の入った《核》は何か普通の《核》と見て区別がつくのか、そういえばお師匠様に今度聞いてみよう。蒐集家の魔女ならそういうものは入れていないだろうけれど、他の《核》を見る時の参考として。


「この瞳を入れた新しい子の名前には、今も迷ってしまっているんですが……この子もきっと、私の自慢の子になります」


「あるじさま、わたくし達は?」


「アワユキ達はー?」


 ふわふわと飛んできた二人が拗ねたように言うから、「もちろん自慢の子よ」と言って私は二人を撫でた。メリンダ様が仮面の下で、笑むように目を細めていると、何故かわかった。


「やっぱり、あなたが選ばれてよかったと思います。このドールアイのことも、新しい子のことも、大切にしてくれるでしょう? そうだ、早速つけてみてくれませんか」


 そう提案されると、悪いことではないと思った。すべて組み立てた後に《核》を入れるのだから、その手前で止まればいい。

 私は自分で紡いでいた、月の光を使って作った魔法糸を取り出す。うっすらと銀色に光るそれをもう一度軽く撚り、道具を使ってまずは手足に行き渡らせた。両の手と足に糸を巡らせてから、それらを束ね合わせてまとめる。結んだ糸の反対側を頭の中にかけて、ひとつの輪のようにし、魔力を込める。頭と体をつけ、髪をくっつけてから――私はどちらの面を出すか何度か試しつつ、結局、どちらの色も花も見えるように、瞳を入れ込むのであった。

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