第650話 蒐集家の魔女、面白い話を聞く

 あたくしの元に旧知の魔女から連絡が来たのは、緩んできた空気に珍しく外でお茶をしようかしらと、《ドール》に支度をさせていた時のことだった。


「はあい? あら、貴女からなんて珍しいじゃない」


『久しぶりだね、イルミオラ』


 混ざり物のない、透明で美しい水晶の中には友人の姿が映っている。気づけば随分と長い付き合いになった、修復師の魔女だ。一時期は彼女も色々とあったようだけれど、興味がないからあたくしは知らなかった。必要なことならアルミラが話すかしら、と思いながら、多分十年は経ってる。もっとかもしれない。


『あたしの今一番新しい弟子のことで、あんたの力を借りたくてね』


「貴女がそう言う時は《核》が目当てだって、あたくし、わかっていてよ」


 あたくしは《ドール》を一人しか持っていないけれど、それより沢山の《核》や心のカケラを集めている。アルミラは時折、あたくしの集めたそれらをの一部を欲しがった。彼女がくれるものを気に入ったり気が向けば、分け身を作ってそれをあげている。あたくしの揃えたものは損なわれないし、彼女の求めにも応じられるからだ。《ドール》が自らの《核》を損なったり、体の部品の大半を無くしてしまった時、元の《核》を補うのに使うらしい。


『今回はあたしの弟子がね……こないだ三等級になった、クロスステッチの魔女。キーラって言うんだけど、あの子が不法投棄されてた頭を拾ってきたんだ。んで、体と髪と目を別々で手に入れたんだけど、肝心の《核》は決めきれなかったとかで持ってないのよ。そもそも不法投棄されてた頭にバラ売りの体なんて、普通の人形師から《核》だけ買わせてくれるようなことはできないでしょう? それで、イルミオラを頼ろうかなと』


「面白そうじゃない。いいわよ」


 即答した。面白そうな話を持ってきてくれるから、あたくしはアルミラがあたくしのものを欲しがっても許してあげるのだ。無理強いもしないし。バラバラに買い揃えられ、頭は一度捨てられたという《ドール》にどんな《核》が入り、どんな子になるのかを見るのは面白そうだった。

 瞳はまだお弟子の手元に届いていないそうなので、届いた後に改めて連絡が来るらしい。その連絡を受けて、あたくしは《核》や心のカケラを持っていくことで話がついた。


「楽しそうですわね、マスター」


「ええ。アルミラがまた面白い話を持ってきてくれたもの」


 淹れてもらった熱々の紅茶を飲みながら、あたくしは聞きそびれたことがあることに気づいた。まあ、あったら聞いてみることにしよう。

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