28章 クロスステッチの魔女と体探しの旅

第620話 クロスステッチの魔女、抽選結果が来る

 私が春の訪れを肌で感じ、保存食のごった煮を作って春を祝おうとしていた頃。窓をコツコツと叩く音を聞いたのは、そんな昼下がりのことだった。最初は風の音かとも思ったが、明らかに違う。何かが意思を持って、訪いを告げるかのように窓を叩いているのだ。この家は重い木で窓を覆っているだけだから、開けてみないと訪問者はわからない。


「まあ、悪意のある相手だったらそもそもこんな悠長なこともしないか」


 なんて思いながら窓を開けると、まだ少し肌寒い風と一緒に粘土細工の水色の小鳥が室内に滑り込んできた。私に向けてまっすぐ飛んできたかと思うと、手に冷えた感触を一瞬残して消えてしまう。

 私の手の中には粘土でできた水色の小鳥型の器があって、腹にあった取っ手を引っ張ると蓋が取れる。その中には、一通の手紙があった。よく見てみると小鳥の目は何かの石を嵌め込んであって、首のところにはぐるりと魔法の紋様が刻まれている。おそらくは、魔法で作った粘土細工の小鳥の器はこの紋様によってこの家まで飛んできたのだろうと推測はできた。


「リボン刺繍の二等級魔女アルミラの弟子、クロスステッチの三等級魔女キーラ様……さすがに字が小さいけど、自分の名前は間違えないわ」


 キーラ、と一番下に大きめに書いておいてくれたのがありがたかった。ひっくり返すと差出人は、粘土細工の二等級魔女メリンダとある。それでわかった。あの、高価なドールアイを抽選で売ると言っていた魔女だ。


「結果が来たんだわ!」


 封筒を開けてみると、紙が二枚入っていた。一枚を広げて読む。


『リボン刺繍の二等級魔女アルミラの弟子、クロスステッチの三等級魔女キーラ様

貴女はこの度、メリンダのドールアイの当選者に選ばれました。つきましてはこの小鳥に以下のお金を入れ、魔力を込めていただくことで、お支払いをお願いします。お金を確認でき次第、ドールアイをお送りします。


メリンダより』


 当選のお知らせは、当たると思っていなかっただけに望外の喜びをもたらしてくれた。私の喜んでいる顔と、お金の入った壺を引っ張り出した様子に、みんなもそれと察したらしい。口々におめでとうと言ってくれた。細かい小銭を三回計算して金額分入れ、小さな羊皮紙に『ありがとうございます。細かいお金が多いために重くなってしまいましたが、よろしくお願いします キーラ』と書き添えて蓋をする。たっぷりの魔力を込めてやると、私の元に飛んできたより明らかによろよろとした動きで小鳥の器は動き出した。


「お願いね! メリンダ様によろしく!」


 何度か羽ばたいた後は危なげなく、小鳥は窓から飛んで行った。

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