第619話 クロスステッチの魔女、春の足音を聞く
四人で年越しを祝ってから、春までの時間はあっという間の気がした。魔法を作り、それ以外の裁縫の勉強も少ししていると、時間は早い。刺繍を袋物に加工したり、ちょっとした入れ物にしたりするから、基礎の基礎は一応習っている。けれど、あまりやっていないから、これであっているかの自信はいつもなかった。
「主様ー! お出かけしてくるねー!」
アワユキはいつも元気に跳ね回っていて、雪の中に出て行っては色々なものを持ち帰っていた。年が明けてからの、冷え込みが一番厳しい中で特に元気にやっている。魔女だし暖炉に火を焚べていても、私はあまりこの寒さの中で窓は開けたくないんだけどな。外にも出たくない。そんな中でこそ、アワユキは特に元気そうだった。最初はルイスがついて行っていたけれど、元々雪の精霊であるアワユキの方が雪の中では慣れている。だからそのうち、一人で出かけるようになっていた。
「見て見てー! 拾ったー!」
「あらまあ、今日も大
口にしてから、あまりこの言い回しはよそでは言わなかったかしら、と思ったけれど、アワユキから聞き返されることはなかった。
アワユキが持ち帰ってくる物の大半は小綺麗ながらくたで、残りは少々の魔力がある素材だった。魔氷の芯や、冬の最中でも咲く雪白草、精霊の置き土産と言われる精霊石の欠片。ものすごく強力ではないが、あると魔法の選択肢が広がるそれらを私が喜ぶから、アワユキは連日外に出ていた。
「マスター、最近は冷え込みがマシになった気がしませんか? きっと、もうすぐ春ですね!」
ルイスがそう言い出したのは、アワユキの中でお出かけの流行が落ち着いた頃のこと。確かに廊下に出た時の冷え込みが前より厳しくなくなったな、と思う頃だった。
「多分、もうすぐあの瞳の抽選結果も出ると思うのよ。その時は、どうしようかしら。もし当たってたら、新しい子を増やすとして……」
「僕に使ったりはしないんですか?」
「私は、今のルイスの瞳が気に入ってるからね」
そう言って、私はルイスの頭を撫でた。赤い瞳は、元からあった物。歯車の瞳は、友人の《名刺》でもあるもの。そう言えばしばらく連絡を入れてないから、今度水晶で話してみてもいいかもしれない。
「アワユキは、新しいお目目より今の方が好きー!」
「そもそも変えられるように作ってないからねえ」
「あの、わたくしも、今の方が好きです」
「みんな嬉しいことを言ってくれるじゃない」
そんな会話をしていた頃だった。春と共に、一通の手紙が来たのは。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます