第615話 クロスステッチの魔女、贈り物をもらう

「三等級らしく、というか、一人前らしくなってきたあんたに、何かやろうかねぇ。贈り物の返礼をしないのも無礼だ」


 カップになみなみと注がれていたお茶を飲み干して、お師匠様はそう言うと立ち上がった。


「少し待っておいで。まったく、贈り物をできるほどえらくなるなんてねぇ。これも三等級効果かしら」


 そう言いながらお師匠様は奥に行く。二十年私もここで暮らしていたから、行先の検討はついていた。多分、倉庫部屋だ。私のものより大きい部屋を三つ、お師匠様は倉庫にしている。雨でも雪でも構わず材料を取りに行けるからと言ってそうしていたし、私も同じようにしていたけれど、魔女によっては倉庫を別の建物にするらしいと最近知った。その方が《空間拡張》だの《保温》や《保冷》だの、たくさんの魔法を心置きなくかけて保存できるから、らしい。確かに、それはそれで利点になるのは頷けた。


「お茶、いります?」


「お願いします」


 熱い紅茶をもう一杯注いでもらって、ゆっくりと待つことにした。魔法は少し上手くなってきたから、今度、ティーポットとかを飛ばす魔法を教えてもらおうかな、なんて思う。あの時もらった魔法の本に書かれた三等級魔法のすべてを、私はまだ把握できたなんて言えなかった。どれがあの魔法になるのか、見当もつかない。


(もしかしたら、二等級の魔法かもしれないけど)


 そんなことを考えながらお茶を飲んでいる。静かな時間は、嫌いなものではなかった。


「何をくださるのか楽しみですね、マスター」


「色んな意味でドキドキするわ」


 ルイスとそう話していると、ひょっこりと扉の向こうからお師匠様が顔を出す。


「クロスステッチの魔女、キーラ、こっちにおいで」


「はい、今行きますお師匠様」


 持ってくるのかと思ったら、私がそちらへ呼ばれた。立ち上がって移動すると、廊下には暖炉の恩恵がなくて肌寒かった。それでも覚悟していたよりは寒くないのは、熱い紅茶のせいか――時折廊下に飾られている、魔法の刺繍の効果だろう。知らない魔法だった。


「こっちだよ、第二倉庫部屋」


 手招きされた方に行くと、お師匠様が改まった様子で聞いてきた。


「キーラ、《ドール》は好きかい?」


「好きです」


「ルイス達が傷付いたら、自分で直したいと思うかい?」


「もちろんです」


 前にも聞かれた気がするな、と思いながら迷いなく返事をすると、「ならこれをやろう」と革の袋を渡してきた。しっかりとマチのついた、重い袋。開けてみると、中には様々な道具が入っていた。

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