第608話 クロスステッチの魔女、ちょっぴり間違える

「あなた、《ドール》達に何か買ってあげたいの? だったら、うちの石をどうかしら。魔女には指輪にしかできなくても、《ドール》の大きさならどうとでもできるわよ」


「うっ」


 私が迷っていることに気づかれたようで、店員の魔女がニコニコと笑みを浮かべたままこちらに寄ってきた。彼女はブローチや首飾りをつけているだけでなく、襟や手首にも石のついた飾りをつけていて、歩く度にそれらがこすれる良い音がしている。


「店員さん、このブローチいただけるかしら」


「はあい、ただいまー」


 別の魔女が大きな石のついたブローチを、値札も見ずに買っていくのを横目では見た。羨ましいとは思わない……そりゃあ、いつかはあれくらい気にせず買い物をしてみたいけれど。とはいえ染みついた平民根性というか、大金を使うのに恐れは消えないのだ。靴だって、相当迷った。まあ、今回はどう頑張っても、手持ちのお金が足りないのでブローチは買えないので、いつか手にしてみたい素敵なもの、に大きな石の装身具を加えてみることにする。いつかそういうのを自分のお金で買って、とっておきのお出かけの時につけていく自分は、誰が見ても立派な魔女だろう。


「マスター、このあたりの石でみんなでお揃いのものとかどうです?」


「やってやって! アワユキもお揃いしたい!」


「わたくしもそういうの、いいなって……」


 三人からそう言われて、私はお揃いにするなら、という視点で石を見始める。また店員の魔女に声をかけられたのは、その時だった。


「皆さんでお揃いをねだられているのでしたら、これはどうでしょう? あなたの瞳の色をした、青蛍石ですよ。それと、追加でお金を出してくだされば、加工もしております。台座につけて首飾りにしたり、腕輪にしたりですね。細工一門ではない魔女は、よく頼んでいきますよ」


 確かに、お揃いにしても加工するアテはなかった。だから、追加のお金を出して加工してくれるのは、とても嬉しい。


「よし! その石と加工、お支払いします! ……ただ、もう大きいお金なくなっちゃったんで、細かいのでいいですか?」


「大丈夫よー」


 細かい銅貨しか残っていなかったので、全部合わせた値段を頭の中で計算しながら銅貨で払う。店員の魔女に渡すと、彼女は指で数えた後で二枚をこちらに戻してきた。


「ターリア様の銅貨なら、これで足りてるわよ。難しいものねえ、お金って……」


「今日初めて間違えたのが奇跡です」


 大人しく受け取ると、紙と羽ペンを渡された。住んでるところを書き、水晶の波を交換し合う。

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