第599話 クロスステッチの魔女、贈り物を考える
新年のちょっといいご馳走と贈り物を用意していた時。今年は少し余裕を持って、お師匠様にも挨拶に行こうか、なんて思ったりもした。
「その場合の課題はー……何を贈るか、なんだけれどね」
何せ、お師匠様が相手だ。試験に挑むような気持ちで選ぶべきだし、生半可なものを選んでしまえばお小言も来るかもしれない。
「幻霧キノコの糸……はまた怒られそうだし、せっかくなら何か作品を作りたいわね」
そうと決めたら早速実践。どんな魔法が作れるか、本と倉庫を往復しながら考えることにした。簡単な魔法を丁寧に作るか、それとも思い切って難しい魔法に取り組んでみるか。ううん、これはしっかりと悩むべき悩みだ。せっかくなら、私の成長を見てほしい。
「とりあえずこの辺の魔法は危ないから、やめておくことにして」
「思いっきり本の後半を諦めましたね、マスター」
「だってここから先は、戦闘用魔法の章だし」
こんなのをぽんぽん作っても使い所がない、というか使い所が来て欲しくない。身を守るための魔法はそれより前の章で書いてあるから、ここから先は本当に、その気になって使えば他者の害になるような魔法ばかりだ。
なので、それより前の部分の魔法を見る。あんまり難しい魔法だと間に合わないし、材料も今あるもので、と考えると、意外と限られてきてしまうけれど。
「雪で洗った糸を使おうよお、そしたら冬って感じがするよ?」
「それはいい考えね! じゃあ、糸はそうすることにして……雪晒しの白糸で作れる魔法は、っと」
私が本をめくって調べ始める姿を、アワユキは私の肩に乗って眺めていた。残念ながらこの本は「魔法の用途」に合わせて章立てをして、魔法の図案と材料、効果なんかを並べている。材料で調べたい場合は、ひとつひとつを見ていくしかなかった。
「こうしてみると、色々あるわね」
「今ある糸で作ってくださいな。また糸を雪で晒し始めたら、今度こそ手を痛めてしまいます」
さらっとキャロルに釘を刺されたので、大人しく今持っている範囲で作れるものにする。《魔女の夜市》の後は新年の祝いまであまり時間がないから、あそこで材料を買うというのは難しかった。こういう時こそ、あてもなく溜め込んだ――だっていつか使うかもと思ったんだもの――魔法の素材を使うべき時間だ。
「よし、これなんてどうかしら?」
私が見つけた魔法は、黒グミの実の汁で染めた布に雪晒しの白糸で刺繍を施すものだった。爽やかな気分になりやすくなる魔法、だそうだ。人の心に影響を与える魔法だから、ちょっと難しそうだった。
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