第598話 クロスステッチの魔女、お金を数える
雪が降る日が増えてくると、もうすぐ今年の《魔女の夜市》だな、と思う。今年は何か、《ドール》達の服になるものを買ってあげようか、なんて考えながら壺の貯金を少し数えた。
「重くはなってきたわねぇ……」
一応、普段は魔法で隠してある素焼きの壺。そこには、お財布に入りきらなかったお金を貯金として貯めていた。この家を買い取って完全に私のものにするには、それなりの金額を貯める必要もある。
「今度の《魔女の夜市》に行くのに、銀貨と銅貨をこれくらい財布に移しておいて……それ以外のお財布のお金は全部、壺に入れちゃえ」
ちまちまと魔女組合でお金を稼いではいるけれど、私が持っているお金の大半は銀貨や銅貨だった。金貨なんてルイスを買った時以外、見たこともない。普通に糸を紡いでそれを魔女組合に納めるだけでは、銅貨しかもらえない。量や質が良ければ銀貨がもらえるとはいえ、大体は銅貨だった。
こうして並べてみると、色々な絵柄の銅貨があるのが面白い。大体どの国でも同じような貨幣を使うし、交換もできる。どんな国でも銀貨一枚が銅貨十枚以上になることはそんなにない、はずだ。けれど、世の中には貨幣を収集して眺める変わり者の金持ちもいるらしい。
「魔女組合のお仕事でもらうのは大体、エレンベルク魔女貨幣だけど……他の絵柄のはどこでもらったんだっけ……?」
魔女組合が特に使う貨幣には、ターリア様の顔が刻んである。あの日に兄妹からもらった銀貨は区別しておきたくて、壺に入れる気も財布に入れる気もなかった。《ドール》達にそうしてるように、私も小さな巾着をさっと縫って、銀貨を大切にしまう。本当にいざという時、この貨幣に助けられたという話が本当かを確かめる日は、来ないままでいてほしかった。
「旅先とかではないんですか?」
「多分ね。普段はそんなに、硬貨の柄なんて見ないからなあ」
どれがどこの貨幣かも思い出せない。とりあえず今日は、全部壺に入れてしまうことにした。両替商が近くにいて、私がこのことを覚えていたら、今度教えてもらおうかな。
「じゃらじゃら、沢山だねえ。主様、お金持ち?」
「全然よ。もっとすごい人はすごいんだから」
多分だけど。お師匠様とか、グレイシアお姉様とかは自分で稼いでいるし、メルチなんかは元々がお姫様なんだから、そういうお金持ちなのだろう。人の財布なんて見たことないから、私はなんとなくでそう答えた。弟子入り直後にあれこれと雑用をしていた頃は、貨幣の取り扱いからわかってなかったな、なんて昔を思い出すと懐かしかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます