第573話 クロスステッチの魔女、次なる目的地に着く
《クーリールの風の精霊溜まり》の近く、次の巡礼宿に着くまでには数日かかった。風は近づくに連れて強くなり、箒で飛ぶのが難しくなってきたから、今朝からは歩きの旅だ。四方八方から風が吹きつけ、箒は縦にも横にもぐるぐると回されてしまい、危うく酔いかけたので仕方ない。
「流石は、風の精霊溜まりの近所ね……」
「マスター、お髪が大変なことになってます!」
「魔法でドッカンした時みたいになってるよ!」
「お手入れしなくていいんですの?」
最後は、私の服のポケットから顔を出しているキャロルのものだった。ルイスは小型とはいえ手のひらよりは大きく、風の中でも歩くことができる。アワユキは「自分で飛ぶのー!」と言ったので、《探し》の魔法の蝶と同じく、リボンで飛ばされかけないように私に結び付けられていた。キャロルはその小ささからリボンで結びつけても不安が残るので、今回の措置となった。ルイスと同じであるキャロルも暗く閉ざされた場所を嫌がる可能性が高いので、ポケットから顔は出せるようにしてある。
ちなみに三人が何をさっきから言ってるかというのは、簡単なこと。風に煽られ、好き勝手な目に遭わされている私の髪のことだ。
「綺麗には直したいところだけど、風が強すぎて無理ね。キツく編み込んだら編み込みは解けないかもしれないけど、正直得意じゃないし、太くなった髪の毛が煽られてぶつかるのは痛いから嫌。もうこのまま進んで、巡礼宿に着くところで直すわ」
直せるほど、風が静かになっているといいのだけれど。そう思いながら、とにかく魔法の導きに従って進んだ。風は私の腰から上くらいに始まり、それより上では好きなように吹き荒れている。アワユキがまた勢いよく舞い上がって、私の頭の上に着地した。
「こうしてみると、他の精霊溜まりって本当に、平和だったわね……」
今思い返すと、ノーユークに行く途中の道はゴツゴツした石がたくさん転がっていたし、ナルーアに行く途中には小さな川がいくつかあったけれど。『土と水なら瓶に入るが、風と火を瓶に入れるのは難しい』という、魔女の中で言い伝えられていることわざを思い出した。風の場合、入ったとしても見えなくてわかりにくいし、火はそもそも瓶に収めるのに創意工夫が必要。そういう性質がもしかしたら、精霊溜まりにも影響を与えているのかもしれない――なんて、考えてみたりもした。半ば現実逃避に。
「つ、着いたー……」
なんとか巡礼宿に着いたのは、昼過ぎのこと。ドアの前で建物を壁になんとか髪を直し、私はビーズの輪飾りのついた扉をノックした。
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