第571話 クロスステッチの魔女、街でお買い物する
トルーリィヤの街は大街道がいくつかここで合わさるとされている、交易の要所だった。それゆえに戦争や略奪から身を守るため、人間だけで強力な壁を築き上げたと語られている街。
「……この街は、魔女が嫌いなんですか?」
私が簡単に聞いた街の話をすると、ルイスは怪訝そうな顔をしてこそっと聞いてきた。雑踏の中だから、その声を聞き咎める人はあまりいない。
「それ、私もお師匠様に聞いたことあるわ。そしたら、『この街はね、いるかわからない魔女の善意に頼るより、自分達で手入れと扱いのできるもので、街を守ると決めたんだよ』って」
確かに魔女は、気に入った街に住み着く。こういう場所なら、例えば最新の品物が居ながらにしてすぐに入ってくることを好む魔女がいるかもしれない。魔女組合の建物があれば、そこに最低でも一人は魔女が暮らしているだろう。各建物で依頼や情報を取りまとめる魔女は、組合が持っているその建物の別の部屋で寝起きをするらしいから。それでもそういうことを知らない人間が、そう考えること自体は悪いことだと思わなかった。
「それより、お買い物よお買い物! あと、泊まるところも見つけなくっちゃ」
こういう街は人の出入りが多いから、宿屋は少し歩けば沢山ありそうだった。最初に声をかけてくれたところに「とりあえず一泊」と言って泊まることにして、ついでに市場でオススメの店も聞いておく。
「魔女様って言やあ、みんなパンを魔法で出して食べてるもんだと思ってましたよ」
「やれなくはないけど、それだけだと流石に飽きてもしまうしね。おいしいものは好きよ」
宿屋の女将さんはそれなら、とおいしいお店をいくつか教えてくれた。どれも旅人向けで、保存の効く食品を多く売っているらしい。教えてもらった店で当面のスープの具なんかを買い込み、他にも新しい寝袋やその他、冒険者や旅人向けの道具が並ぶその一角を私は楽しく見させてもらった。壊れているものもなく、買い足す必要がないものがほとんどだとわかっていても、見ているのは面白い。
「火をつけるのも、お湯を沸かすのも、魔物を除けるのだって魔法でできてしまうから、この辺の道具は買ったことないけど……見かける度に新しいのが出ていて、前のを見なくなる気がするわね」
「魔女様からしたら、そうかもしれやせんねぇ」
そんな会話を店の人とする。巡礼ではないけど精霊溜まりを巡っていると話したら、「次はどこにお行きで」と聞かれ、熱をよく弾くという魔女製の外套を勧められたので買ってみることにした。
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