第569話 お師匠様、近況報告を貰う
あたしが我が弟子、クロスステッチの三等級魔女キーラの近況を聞いたのは、ある天気のいい昼下がりのことだった。水晶が震えて、連絡を受け取ったことを示すので、繋げる。水晶の中に末弟子の姿が浮かび上がったので、今度は何をしでかしてしまったのだろうかと真っ先に考えてしまった。何故か、不思議なくらい厄介ごとを吸引する体質なので。
『お師匠様ー、クロスステッチの三等級魔女キーラです。無事、《ノーユークの土の精霊溜まり》と《ナルーアの水の精霊溜まり》で、《精霊樹》を育てるための土と水を分けてもらってきました!』
彼女はうっかり迷い込んだ《もうひとつの森》で、精霊たちの機嫌を損ねるどころか《精霊樹》の挿し木の枝を貰って帰ってきたのだ。そもそもあんなもの、入ろうと思って入れる場所でもないし、このあたりの森があそこに繋がったこともない。だのにまあ、どうしてこう、こちらの予想の斜め上を飛んでいく弟子なのか。まあ、二十年近く面倒を見ていれば、慣れては来ている自分が空恐ろしくはあった。
とりあえず身を護らせるために防御用の魔法から優先して教えた自分は間違ってなかった、と再確認しながら話を聞いていると、これから彼女は他の精霊溜まりも巡るのだと言い出した。なんでも精霊の力を籠めた石というのを貰っていて、これに風と火の力も分けてもらいに行くのだと言う。
「……その石のことも、迂闊に言うんじゃないよ。古風な《精霊人形》を連れている時点でそうだとは思っていたが、あんたは精霊が気に入る子供のまま、魔女になっちまった。接し方には気をつけなさい」
『わかりました、お師匠様』
少々抜けていて、明るくコロコロと表情を変えて、精霊が起こす様々な事象に素直に目を輝かせる。魔女は目が肥え、美しい物や不思議なことにどうしても慣れていくものだけれど、キーラはまだそういうことが薄いようだった。年を重ねて行けば、失われるだろうものを今のうちに享受しているべきだろう。美しさに慣れていくことで、魔法が暴発することが減るのと等価交換だ。—―いつまでも暴発していてはたまらないから、落ち着きはいつか欲しいけれど。
「まあ、全部回り終わったら、戻ってきてどんな《庭》になったかを見せてほしいわね」
『道中で色々と面白そうな草も摘んできましたし、楽しみにしててください!』
よく跳ねる幼子の心のまま魔女になったキーラは、そう誇らしげな顔であたしに笑いかけた。あの子とは全然違って、魔が差しそうにない顔だった。
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