第567話 クロスステッチの魔女、水をもっともらう
石に精霊の力を込めさせてもらい、《精霊樹》にたっぷりと水をやって終わる、と思っていた。
『その箱庭、木以外のものを置く広さはあるようじゃのう』
「? 一番大きいものではないですが、それなりに大きい方かと」
少なくとも、ナルーアの湖よりは広いです、と私は苔の口あり精霊に答えた。沢山の植物を植え、それらが茂り、増えることを前提としているのが《魔女の箱庭》だ。それなりの広さは、小さめとして買ったこれにももちろん備えられている。一番小さな庭でも、一軒家よりは広かった。――いつか聞いた話によると、どうやら空間を作り出して維持する魔法は、ある程度広さがある方がやりやすいからなんだとか。猫の額ほどの広さのものは作っても維持するのが難しいから、安定のために広めに空間を取るのが常なのだそうだ。
『ちょうどそれらしいものもあるし、あそこを借りますかねぇ』
なんとなく、何を指しているかはわかった。魔女組合で売られている《魔女の箱庭》には、必ず搭載されているものがある。そのひとつが苔むした石造りの、地面にめり込んだ深皿のようなものだ。深皿の中心には、小さな布が丸められて入っている、素焼きの壺がある。この壺、厳密には布に水を沁み込ませると、同じ水を深皿、もとい噴水いっぱいに湛えるようになるのだ。おかげで水を外から汲んでこなくて済んでいるから、これらの魔法を必ずつけるように決めた魔女にもし会えたらお礼が言いたかった。
小さな精霊たちが集まって、その噴水が精霊の水を湛えるように取り計らってくれた。もうひとつの《魔女の箱庭》はお師匠様の家と私の家の側を流れる小川の水を湛えるようになっているのだけれど、明らかにこの水はもっと、キラキラしていた。
「石に水の力を込めていただけるだけでも、十分でしたのに」
『たよられるの、うれしー!』
『おみず、みんないるってばぁばいってた!』
小さな精霊達が、誇らしげに私の周囲をくるくると回る。そのまま『あそぼあそぼ!』と引っ張られ、湖に引っ張り込まれそうになったので慌ててストールの魔法を使った。
『おおー』
『魔女、とんでるぅ』
常に霧があるから、あまり飛んでくる魔女もいないのだろう。ストールの力で浮いてるだけの私のことを、精霊たちは面白がった。
「あー、でもいい感じに涼しいわね。湖の上って」
「僕たちもそっち行ってみたいです!」
私が少し涼を取っていると、ルイス達も来たので、一人と三人と沢山でしばらく水遊びをした。
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