第543話 クロスステッチの魔女、ドッキリに成功する
予想よりおいしく焼けたケーキを食べていた時、カツ、とルイスのフォークがお皿とは違う硬いものに当たる音がした。怪訝そうな顔をした彼が、またケーキを切り分けようとする。
(あ、そろそろ気づいたのかな?)
いつも通りの顔を意識して様子を見ていると、アワユキとキャロルの皿からも同じような音がした。
「どうしたの?」
「何か下に入ってるような気がして……」
「木の実じゃないかしら」
そう嘯いてはみたものの、怪訝そうな顔は晴れなかった。普段なら心配するところだけれど、今回は原因が分かりきってる上に、自分が仕込んだからむしろ楽しみなまである。これ、見つかったらどんな反応してくれるのかしら、って。お師匠様にもたまにこういうの仕込まれたけれど、仕掛ける側の気持ちがわかった。これ、楽しい!
「んっ、これは……銀貨、ですか?」
「アワユキのお皿にもあるー!」
「わたくしのもですわ」
ふふふ、驚いてる驚いてる。いやあこの反応、予想以上だ。ケーキで多少汚れたとはいえ、よく磨いた銀貨の輝きをつかみあげたルイスが大真面目な顔で「マスター、これ、紛れてたからお返しします」と言ってきたのには驚いた。なんていい子に育ったんだ、私の《ドール》達は。
「それは、あなた達にあげるわ。年越しの時に、お師匠様がそうしていた真似なんだけど……よく磨いた銀貨を、ケーキに入れて渡すの。でもうっかりして普通に焼いちゃったから、代わりよ、代わり。その銀貨はお守りになると言われているから、大事になさいね」
「わかりました、マスター」
「びっくりしたぁ!」
「ね、びっくりしましたわぁ」
三人には銀貨を傍によけさせて、お皿とかと一緒に銀貨をもう一度洗うことにした。もちろん、ケーキの後でだけれど。
私がお師匠様からもらった、新年のお守りの銀貨は二十枚。十年目くらいからは、毎年もらう度に「こんなに銀貨をやった弟子は初めてだよ、早く自立しな」なんて言われたものだった。いつも財布の底に入れている、これらだけは手をつけないと決めていた。
「どんな風に持ち歩きたいか、考えておいてね。入れ物を縫ったりしてあげるから」
「わかりましたー」
「どうしようかな」
「悩みますわね」
興奮した様子の三人が楽しそうに盛り上がっているのを見ながら、ケーキをまた一口頬張る。なんだか心なしか、さっきよりもおいしくなっているような気がした。きっと、楽しい気分がより増したから、ケーキもおいしく感じられたのだろう。
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