第539話 クロスステッチの魔女、旅の計画を立てる

 お師匠様には精霊が多くいるという場所をいくつか教えてもらい、私はお師匠様の家を辞した。石になったあの枝は長持ちするというから、多少時間があるそうだ。お師匠様が言う「多少」なら、それなりに……例えば一年くらいは、見てもいいだろう。


「今回はちゃーんと、旅の計画を立てないといけないわ! というわけでこの冬の残りは、春から先の旅先を決めようと思いまーす」


 地図を掲げた私がそう言うと、なんとなく三人が拍手をしてくれた。ルイスが小さく手を上げて「マスター、三等級試験に合格されたら旅に出て大丈夫なんですか?」と聞いてきた。痛いところを。


「その場合はまあ、多分、組合のところでちょっとした儀式をするだけだろうから……出発をその後にずらすわ」


 三等級魔女の人数は、それなりに多い。四等級の時と同じように、組合でありがたいお言葉と共に首飾りの色を変えてもらうだけだろう。四等級に合格した時は、沢山の魔女と共に見習い用の石の首飾りが硝子に変えられ、《契約の一》が封入されたものだった。人数が多いから、私の番になるまでドキドキしながら待った記憶が蘇る。


「不合格だとわかったらすぐ出発、合格なら手続きと儀式を終えてから出ることにしてー。エレンベルク国内にはいくつか《精霊溜まり》があるっていうから、それを回ってみようと思うの。その時は、ビーズを連ねた腕輪を用意しないと――あー、その方が面倒そうね」


 精霊は死した人の魂が変じた姿だという伝説のひとつから、《精霊巡り》の風習が生まれた。死者の名残を求めて沢山の精霊が住む《精霊溜まり》を巡礼する人達は、ビーズを連ねた腕輪をしている。とはいえよく考えたら私には会いたい死者もいないし、魔女の首飾りがあれば旅人としてある程度の身分保証はされる。だから、腕輪の用意はしないことにした。


「確実に欲しいのは土の精霊の土と、水の精霊の水。だから家から近くて、この二つの精霊がいる辺りに行きたいのよね。ここと、ここ、それからこの辺りも行きたいわ」


 地図にトン、トン、と指を置きながら話をする。《精霊溜まり》は自然が多く、手の入っていない場所になる。だからどれに行くにしても、箒の手入れと野宿の準備が必須だった。だから最初から、宿には一切泊まらないくらいの用意が必要になる。


「ここから一番近いのは、《ノーユークの土の精霊溜まり》……何々? えぇと、『泥だらけにされるつもりで来ること』?」


 よく見たら小さい字で、何か気になることが書かれていた。

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