第505話 クロスステッチの魔女、受験の話をする

「お師匠様、三等級の受験はどんなことをするんですか?」


「四等級より細かい筆記試験、実技として指定された魔法の発動、主にこの二つよ。やることそのものは四等級の頃から変わらないけれど、問われるものがもっと細かかったり、難しかったりするだけだね」


 三等級魔女試験で聞かれるから、と言われて渡された大判の本のことを考えた。結構細かいことが色々と載っていて、正直うっとなってしまった本。わかっていることでも、ああも細かく言われるとなんだかドキドキしてしまう。なんとなくて覚えているというか、改めて聞かれるとわからなくなってしまう、というか。


「ちゃんとやることやって実地で学んでいれば、そんなに不合格率は高くないよ。だから落ちていい、というわけでもないし、受かると思って申し込んだんだからね」


 四等級の頃よりは落ちる魔女がいないわけじなないよ、と言われて、少しホッとした。何せあの頃は、『四等級魔女試験に落ちる魔女はいない』と言われて発破をかけられ続けていたのだ。確実に受かるまで受験させない、と言われたので、二十年もかかってしまった。まあ、名前しか書けなかった私が曲がりなりにも筆記試験を突破できるようになるまでは大変だったのだ。特に恨みはない。


「三等級の実技って、どんなのがあるんですか?」


「渡された図案で魔法を作るから安心なさい。さすがに四等級に魔法を暗記させることはしないよ、事故を起こすから。というか過去に起きたから」


 なんでも、『ひんやりした風を出す魔法』の試験の時、記憶違いなのか魔法を間違えてしまい、さらに緊張で魔力が大量に注ぎ込まれた結果、『暴風で業火が吹き上げられる魔法』になってしまった事故があったそうだ。聞くだけで怖そうな事件である。


「……それ、大丈夫だったんですか?」


「大丈夫にしたそうだよ。試験官の魔女総出だったみたいだけど」


 それ以来、『実技試験は各魔法の流派に合わせた手本を時間内に作成』し、『試験官の許可を得て魔力を通す』ものに変わったそうだ。魔法の取り扱いには気をつけるように、ともう一度釘を刺されてしまった。


「言われなくてもわかってますよぅ……」


「あたしも嫌だよ、あんたが試験会場でやらかして降格して帰ってくるだなんて」


 絶対合格してみせますから!と言い切れるほどの力が、自分にない自覚はあるのだ。とはいえ、事故を起こして降格にならない自信は……さすがに……あ……あるかなあ?

 やっぱり練習と勉強が必要だった。

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