第501話 クロスステッチの魔女、受験勉強に書き取りをする
私の受験希望が魔女組合本部に提出されてしまい、かくて私には『半年後に試験を受けない』という選択肢が消滅した。どんなに泣いても笑っても、半年後には三等級魔女試験を受ける。受けるしかない。
「四等級魔女試験まで二十年は長いけど、四等級から三等級まで五年以内は平均くらいよ。四等級で独り立ち許可が出るけれど、三等級にな」ば『大体一人前』ね」
「その言い方だと、四等級はどうなるんです?」
「最低限一人前」
お師匠様にさっくりとそう言われて、私は自分でもよくわからないけれど吹き出してしまった。ステューが豆本のひとつを持ってきて、「これ」と差し出してくる。
「ステュー、違うんだよ。ステューが本を読んでやって、クロスステッチの魔女に書き取りをさせるんだ。本はそれにするのかい?」
こくりと頷くステューが早速本を開き始めたので、慌てて羽ペンと羊皮紙を用意した。紙はとりあえず、私がまとめ買いしている安い切れ端だ。お師匠様が魔法で新しい羊皮紙の束を飛ばしてきてくださり、インクをペン先につけてあかる間に取り替えられる。
「ありがとうございます」
「そんな切れっ端でお話の書き取りは無理だからね……ステュー、読んでおやり!」
拙い声の朗読が始まるので、なんとか聞き取ってペンを動かした。『星摘みの魔女』の物語……私の知らないお話だ。
「その魔女は、星を摘んで自分の首飾りにしたら、どれだけ美しいかと考えました。それで、星を摘み取るための魔法、を、探すたじ……旅に、出ました」
時折つっかえたり、読み間違えるのはご愛嬌というもの。書き取る時には単語を思い出しながら書くから、どちらにしろ一拍遅れてペンを動かしていた。
星を摘み取って首飾りにする、という目標のために旅をする魔女。彼女は旅の途中、星を摘み取って冠を作ってほしいとお姫様に頼まれた魔女に出会う。二人は親友になり、二人で危機を乗り越えたりしながら星を探す旅をした。箒でどんなに高くまで飛んでも、雲を爪先で引っ掛けるより高く上がっても、あの空に輝く星に触れることはできない。世界樹の根元まで辿り着き、その根の中から広がる世界で冒険が始まる。
(あんな小さくて薄い豆本に、こんなにみっちりお話が書いてあっただなんて)
きっと、私のカバンを広げているのと同じ魔法があの本にかけられているのだろう。短い話だと予想して切れ端を出していたけれど、これは確かにちゃんとした大きい紙に書き取るべきお話だった。言ってる側から字を間違えてしまったので、これを二重線で直した。
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