第498話 クロスステッチの魔女、助手として働く
壊れていた左足の替えになれそうな足が、小山になるくらい集まった。お師匠様は「よしっ」と気合を入れて、ひとつひとつ、キラキラした左足に新しい足を重ねる試みを試していく。
「これは微妙に小さいわね。こっちは少し大きい……」
大きさがかなり近い足を見つけたとしても、すぐに決めるわけにはいかなかった。魔法糸に仮押さえをさせて、核が停止している《ドール》を立たせてみると、微妙に歪んでしまうことがあるので油断ならない。新しい足の長さが目で確認しきれないほど微かに合わなくても、見た目には出てしまうし《ドール》本人もおそらく左右の足の長さに気づく。
「今回はまだ、足だから立たせてみればわかりやすいのよね。腕だとちょっと、工夫がいるから」
「確か両腕を前に出させて、手のひらを合わさせてましたよね」
「そうね。腕の長さと手のひらの大きさと、二種類見ないといけないからややこしいのよ」
《ドール》は手も足も、首のところで球体関節を使い噛み合わせている形をしている。だから手や足の甲が壊れて取り替える時は先端だけでいいのだけれど、修復をする立場としては気にしなくてはならない場面が二つあるので、やや大変なのが本音だ。まあ、その程度で本当に音を上げることはないけれど。
「お師匠様、この足が良さそうです」
「そうね、しっかり立ててる。他は片付けて」
「はいっ」
私が机の上に重ねられた足をひとつひとつ箱に戻している間に、お師匠様は足首から先の大きさを比べているようだった。しばらく指先で触れて、「足先は持ってこなくていいわよ」と言われたので、代わりに魔法糸の束を出してくることにした。色々な素材で紡いだ、沢山の糸がキラキラとしている。
「お師匠様、魔法糸はどうしますか?」
「そうね、足してやらないと。これは……三日月の光の糸に月魄蝶の鱗粉と、銀鈴蘭の花びらを浸してある糸。三日月の糸はある?」
「あります」
糸束にはどれも名札がついていて、三日月、と書かれた糸はそれなりの長さがあった。今回の修復には、余裕で足りるだろう。
「月魄蝶の鱗粉と銀鈴蘭の花びらは、新鮮なものがいるから《庭》を出すよ。そこをどいて」
お師匠様が箱を使うと、《庭》が現れた。私のと違ってとても広いから、中で魔法に使う虫まで飼っておられるのはやっぱりすごいと思う。
「私の庭も広くしたいです」
「……まあ、少しくらい広くしてやってもいいだろうね。ちゃんと管理できていたら、だけど。後でお見せ」
「わかりました」
そんな返事をしている私の鼻先を、月魄蝶の白い翅がくすぐっていった。
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