第449話 クロスステッチの魔女、心配もされる

 《裁きの魔女》様に薔薇を預かってもらうことに、お二人の間では話がすでに決まっていたようだった。


「……この薔薇のことは、こちらで調べさせてもらう。裁縫鋏のため、しばらくこの辺りに逗留します」


「ニョルムルの温泉はいい場所ですからね」


 私がそう素直な感想を呟くと、《裁きの魔女》様はしばらく考えた様子の後、「……貴女が一番心配なんですがね」と素直に仰られた。


「そんなにです……?」


「「「そんなにです/だよ/だね」」」


 即座に言われてしまう。それに対して補足をしてくださったのは、マリヤ様だった。


「クロスステッチの魔女、あなた、この中で唯一四等級でしょう。単純に心配されているのよ、年下として」


「あたしは違うけどねー」


 お師匠様には否定されてしまったけれど、確かにこの中で一番等級が低く年が下なのは自分だというのは自覚があった。大人しく心配されておくべきなのだろう。


「マスターはお人がいいから、変なことに巻き込まれても困った人を助けてしまうんですよね」


「ルイスったら!」


 普段は魔女同士の会話にあまり入ってこないことの方が多いルイスにそう言われて、《裁きの魔女》様もくすっと笑われたような気がした。


「お守りは持たせているし、大丈夫だと思うけれど、人間に襲撃もされたんだから少しは自衛しなさい」


「はあい」


 どういうことかと言われたので、あの奇妙な襲撃のことも気づいたら話していた。


「それは人違いで襲われたのではないかしら」


「ああ、ありそう。魔女を本当に襲う気だったら、《魔法破り》を持ってきていないのはおかしいし」


「クロスステッチの魔女、あんた、人違いで襲われる心当たりは?」


 ううん、とここ最近のことを思い出してみる。そういえば一人、変な人はいた。


「そういえば私の泊っている宿に、顔をまるっと隠した外套姿の変な人がいますね?」


「「「「絶対それ!!」」」」


 なるほど、外套さんと間違われた可能性があるのか、と思ったら納得した。ここで今更ながら拾っていたものを思い出し「そういえば外套さんの落とし物を拾ってました」と宝石のようなカフスボタンを取り出した。お師匠様が一目見て崩れ落ちる。


「この馬鹿弟子! こんなもの、魔法の焦点具になるようなものじゃあないか! なんですぐ当人に戻さなかったのかい!」


「ひえぇええ忘れてました!」


「お馬鹿!」


「これは……擁護しようがないね……」


「これは過保護にされるね……」


 お師匠様にまた怒られて、今度は助けてもらえなかった。

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