第421話 女傭兵、不思議な友人のことを思う

 魔女様とお茶をして、あたしは自分の部屋に戻ってきた。十五で故郷を出て、各地をさすらっては依頼を受ける傭兵家業をして生きてきた中で、魔女様と会うのはそれでも珍しい。


「魔女様って、あんなに気さくな方だったんだなあ」


「それは彼女だけな気がするよ。普通の魔女様方は、中心街のいい宿に泊まっている方が多いじゃないか」


 確かに、と部屋に来ていたマルヤと声を潜めて話した。

 魔女様方は美しいものが好きで、美しいものを追いかけて魔女になるという。それゆえか、元々美しいものに囲まれたような人—―お姫様や、お貴族様や、その他いわゆる身分かお金のある人—―がなることが多いのは、有名な話だ。もっとも、才能を見込まれればどんな身分の子供でも魔女にはなれる。魔女は身分の外の存在だから、理由があって現在の暮らしから逃げたいと思っている者は逃げ込むために魔女になる。あたしなんかは女らしいことに一切興味がなく、魔女にはまったく向いていないと思っていた。


「あの人はきっと、お姫様やお貴族様ではない方の魔女だったんだろうね。ちょっと珍しいかも」


「確かに。葡萄酒じゃなくて蜂蜜酒を好んでいるようだし、結構庶民が食べるような食事を好んで食べてくれているし、思っていたよりとっつきやすくていいお人だよ」


 身分の高い人は、そもそもこのような宿には来ない。来たとしたら、あれが足りないこれが足りないと大騒ぎになっていただろう。ところがあの魔女様は、普通に黒パンを食べるし蜂蜜酒も飲むし、幼い頃から魔女様へ抱いていた想像というのが音を立てて崩れていくほどだった。いい意味で、だ。もっとお高く止まっているような、そういう人だと思っていた。


「私、魔女様がお連れになっているかわいいお人形様達を見るのが好きでね。魔女様は冬の間に滞在されるというけれど、春になったら帰られてしまうのが残念なくらいだ」


「確かに、あたしもかわいいと思うよ。お茶も淹れてもらったし、おいしかった」


 マルヤはうらやましそうに「いいなあ」と呟く。マルヤとも付き合いは十年単位になる。冬の間の楽しみは、温泉とニョルムルのおいしい食べ物と、そして楽しい友人とのおしゃべりだった。


「魔女様なら、頼めば淹れてくれると思うよ。お人良し、という言葉が魔女様に似合うことがあるとは思わなかった。中心街の石鹸屋に頼まれて、何かの調べ物をしていたようだし」


「本当に人がいい人よねえ」


 マルヤとそう話しながら、あたしはお酒を一杯頼んだ。

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