第420話 クロスステッチの魔女、友人と一息つく
「魔女様、何かお悩みなんです?」
「あら、カリラ。ちょっと調べ物をしていたんだけど、捗っていなくてね。どうしたものか、お茶を飲んで休憩していたの」
コンコン、とノックをする音がして、カリラが顔を出してきた。私は彼女を迎えて入れて、「お茶はどう?」と勧める。彼女は手に素焼きの酒瓶を持っていたけれど、私がお茶を淹れていたのを見て「たまには飲もうかな」と頬を掻いた。
「花をね、縁あって頼まれたから調べているんだけど、これが見つからなくて。図鑑があるんだけれど、似たようなのがいくつもあってね……」
「へえ、魔女様も大変なんだねえ。せっかくニョルムルに休みに来ているのに、仕事だなんて」
カリラは私を酒盛りに誘いに来たと思うと悪かったけれど、彼女はルイスにお茶を注いでもらって「ありがたいねえ」とおいしく飲んでいた。
「まあ頼まれてしまったから、やれる限りはやってみようかなって思って。赤い薔薇の花に似ていて、蔓があって、魔力がある植物……ってだけでも、いくつかあるから」
「ああ、もしかして中心部の高級石鹸屋かあ」
カリラも、あの店のことは知っていたらしい。別に口止めもされていなかったし、と、「外国から取り寄せた花が大きく育ちすぎて、大変なことになっているんだって」と簡単に話をした。
「あそこは一家経営でね、たまに傭兵を雇って高くて上等な石鹸をよそに運んでいるんだよ。それであたし達も雇われたことが何回かあるんだけれど、報酬にもらった石鹸は泡がすごくよく立ったんだ」
「報酬に、お金と上等な石鹸をお支払いしますって言われているわ」
「それは期待していいですよ、きっと魔女様へなら大きな石鹸をくれるでしょうし」
「私は近くの石鹸屋で買った石鹸を、今気に入って使っているんだけどねぇ。高級石鹸は、元々お師匠様へのお土産に買おうかと思っていたのよね」
あんまりいいものに慣れすぎちゃったら怖いわ、と呟きながらお茶を飲み干すと、ルイスが進んでもう一杯分のお茶を注いでくれた。
「慣れすぎちゃったら戻るのが大変かもしれないけれど、たまにはいいんじゃないです?」
「それはそうかも。ルイス、ありがとうね」
「いえ、マスターが楽しくお話しされている邪魔をしたくなかったので」
キャロルはアワユキとお茶を飲みながらくすくすと笑いあっていて、大変にかわいい。カリラも「魔女様はいいねえ、かわいいお人形さん達と一緒に暮らせるなんて楽しそう」とその様子を楽しそうに見ていた。
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