第414話 クロスステッチの魔女、もうちょっと探検してみる

 私は外套さんのことが気になったものの、外套さんは部屋にこもりがちであまり出てくることがなかった。だから、あまり気にしないようにして生活をすることにした。


「今日はちょっと、普段行かないようなところに探検してみようと思うの。付き合ってくれる?」


「おもしろそー!」


「はあい」


 ニョルムルは後から後から流入した人々によって拓かれていった街なので、かなり入り組んでいるし細く小さい路地もたくさんある。吹雪がやんだ後、私はもっと別の場所――ニョルムルを出るわけではなく、ニョルムルの中で――を見てみようと思い立って出かけることにした。


「マスター、今日はどの辺に行ってみるんです?」


「ニョルムルの中心地に行く前に、いろいろ楽しみすぎてしまって行けてないもの。今日は真ん中まで行ってみることにするわ」


 何分、道中で飲み食べしてしまったり買い物してしまって、結局そこまで行けていなかったのだ。今回は物売りの声を無視するようにしながら、中心地まで行ってみることにした。ニョルムルの中心地には、温泉の一番の源泉があるという。街中のあちこちに張り巡らされている温泉はすべて、ここから汲み取られて流れているものだそうだ。


「魔女様ー、蒸しパンはいかがですかー?」


「今日はまず街の真ん中まで見に行くの、また今度ね」


「わかりましたー」


 顔なじみになった蒸しパン売りに声をかけられてそう返しながら、私はルイスやキャロルがはぐれないように気にしつつ街の中心部へ進んだ。独特の、温泉の匂いとしか言いようがないものが少し鼻につく。


「あるじさま、この先は変なにおいがしませんか?」


「温泉によってはこういう匂いがするのよ。私の故郷の温泉も、こういう匂いがしたわ」


「どうして、お部屋のお風呂にはこういう匂いがしないんでしょうか?」


「温泉を引いてきている間に、匂いが薄れてしまうかもしれないわね」


 そんな話をしながら、あちこちに歩いている人々の中にぶつかりそうになりつつ進む。人ごみを歩くのは、慣れるまで五年以上かかった。人が沢山いるような街に慣れていなかったから、人ごみに流されてお師匠様とはぐれて苦労をした記憶がよみがえる。今ではルイス達がはぐれないように気を配ることさえできるから、成長したものだ。


「あ、主様ー! あれじゃないの、温泉の根っこ!」


 アワユキが勝手に飛び出したかと思うと、尻尾で少し離れたところにあるものを指さす。それは赤いレンガに囲まれて、こぽこぽと湧き出す源泉だった。

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