第338話 クロスステッチの魔女、お師匠様に頼み事をする
「お師匠様。前に見たことのある、手のひらに乗る大きさの《ドール》を作れる魔女のお知り合いは、お師匠様にいらっしゃいますか?」
「なんだい、突然……また増やす気かい?」
あ、失敗した。できるかどうかを、まず聞くべきだった。そう反省して、お師匠様に改めて話を切り出し直す。
「あの、ルイスの中のもう一人を取り出して、別の《ドール》にできないかって思ったんです。ルイスの核は元々大きいし、あの子とルイスはうまくひとつになれないでいたようですから」
「あんたねぇ……植物の株分けみたいなノリで言うんじゃないよ……」
呆れられた。呆れられはしたが、お師匠様は眠ってるルイスの核を見てみてくれた。くるくると回る虹色の光が形になる。
「核よ、よくよくお示し」
お師匠様がそう言ってくるりと指を回すと、ぼんやりとしていた輪郭がはっきりした。それがどういう形なのか、説明することは難しい。まばたきひとつの間に形を変えていることが、お師匠様のお示しではっきりしたからだ。
「魂はよく、炎のような形で絵に描かれるけどね。本当の形は、誰にもわからないんだよ。一度組み込んだ《ドール》の核もそう。魂を再現しようとしたものだから、当然、形は定まらなくなる。元気で健康の証だよ、心や魂が弱るとこの動きも鈍くなるから――あった」
こっちにおいで、と呼びつけられて、言われた通りにする。ほらここ、と指差された先には、確かに小さなでっぱりがあった。虹色の光の中、手を伸ばしても触れることはできないけれど、ルイスと違うルイスの種がある。花や草木にそうするように分けてやって、新しい核と人格になれば良い。
「草木の株分けほど簡単にはいかないがね、やった例がないわけじゃあない。ただし、やると今度は統合する時に――ルイスともうひとりがひとつの核に戻るときに、支障が出る可能性があるよ」
「でも、今も2人はひとつにはなれてません」
「それはそうさね。まず、ルイスと話してからお決め。ルイスの核の一部を削るようなものなんだから」
「わかりました、お師匠様」
私がそう言って頭を下げると、お師匠様は「もう遅いんだ、さっさとお休み」と手をひらひら振ってみせた。私は「おやすみなさい」と言って下がり、ベッドの中で目を閉じる。
ルイスの核のこと。ルイスの中にいた、ボロボロのもうひとりのこと。バロックの魔女のこと。考え事はいくらでもあって、考えないといけないけれど、どれもこれも答えの出ないものだった。
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