第283話 クロスステッチの魔女、衣装が決まる

 しばらくなんだかんだとやりあって、やっと衣装が決まった。私は慣れないコルセットと三角帽子で疲弊していたので、ほとんどお師匠様とルイスとクロエ様で『私に似合う服』を選んでくれたようなものだ。私は途中から熱意と知識でついていけなくなり、ローズマリーのお茶と甘いお茶菓子をアワユキと楽しんでいた。


「楽しそうにしてるわね……」


「弟子の晴れ姿に、張り切る師匠の魔女様は、多いですよぅ」


「お姫様みたいな恰好の主様も好きー!」


 本当のお姫様は三角帽子なんかよりも重い冠をつけて暮らしているんだから、私はお姫様なんかじゃあない、と訂正する元気もあんまりなかった。ローズマリーは絶妙のタイミングでお茶を淹れてくれるので、いい《ドール》だと思う。ルイスも上手に淹れてくれるけれど、ローズマリーはおかわりを注ぐタイミングが絶妙なのだ。多分、長年お茶を淹れ続けた年季の差だろう。ルイスもきっと、そのうちこうなってくれると思うと楽しみだった。


「マスター! 決まりましたー!」


 嬉しそうにそう言って文字通りに飛びついてきたルイスを抱きとめ、どう決まったのかを怖さ半分嬉しさ半分で聞いてみる。


「私の礼服、どうなったの?」


「クロエ様が絵をお見せしてくださるそうです」


 ほらほら、とルイスに手を引かれて隣のテーブルに行くと、クロエ様にお師匠様がお代を払っていた。私の体型に合わせて仕立ててもらうから、前に《魔女の夜市》で買った仕立て済の服よりも金貨数枚分高い。人間だった頃は金貨どころか銀貨さえあまり見たことがなく、買い物は銅貨や鉄貨、あるいは物々交換だったのに、今となっては見ることそのものには慣れてきている自分がいた。まあ、私の稼ぎではそう金貨を沢山は稼げないけれど。


「クロエ、この絵の幻をかけてやってくれ」


「お任せあれ~」


 クロエ様が決定した絵の幻を私に被せ、その姿を鏡に映して見せてくれた。

 黒くてつばの広い三角帽子には、白い刺繍糸で作った花薄雪草と羽の飾り。黒い革に黒い革紐のコルセットで腰を締められていて、膨らましの骨はないからスカートの膨らみは薄いけど重くない。黒いレースの三角形の襟の間に、ガラスの首飾りが収まるように計算されていた。袖の長さはあれこれと検討された末に長袖に決まったようで、二の腕にぴったり沿うのではなく少し広く作られている。シンプルな黒い手袋と合わさって、とても上品な印象だ。それに少しだけ、フリルが付いている。裾も少しだけ長めにとった布を寄せる形でできていて、軽く回って見せるとふわりと広がった。足元は背伸びをちょっぴりする程度のヒールのある靴になっていて、布製の丸い黒の靴は黒いレースのリボンで足首を捕まえるようになっていた。


「これ、とっても素敵!」


 くたくたにはなったものの、私を知る人たちと服を知る人たちの選んだ見立てだ。すぐに気に入って、実際に着るのが楽しみになった。

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