第228話 クロスステッチの魔女、《ドール》の身体を考える
「おはよう、ルイス」
「おはようございます、マスター」
いつも通りに目を覚ましたルイスの頭を撫でると、きゅっと私の服の裾を掴んで甘えてきた。かわいいがすぎる。ステューが用意してくれたお茶を飲みながら、ルイスにもたっぷりと砂糖菓子を与えた。
「ルイス、今回の検査で目立った異常はなかったよ。ただ、あんたは自分が思っているよりも魔力消費の大きい体をしている。《刺青の魔女》が刻んだ刺青自体も、魔力を欲しがるからね。だから、この弟子も言っていると思うけど、こまめに砂糖菓子を食べるように。足りなかったら遠慮なく言えばいいんだよ、この子もわかっていてあんたを連れ歩いているんだからね」
「わかりました。マスターの砂糖菓子は、優しい味がするから好きです」
本当にいい子だねえ、とお師匠様にルイスを褒められて、悪い気はしない。私に合わせて育ってくれた、私だけの《ドール》なのだ。先代の持ち主が現れたとしても、大金を積まれたとしても、手放すつもりはない。
組み立てが終わった後は、丸いテーブルを囲んでお茶会となった。ルイスは机の上に座って、砂糖菓子を食べている。私には紅茶と焼き菓子が出た。
「お師匠様、あの拾った《ドール》のことなんですが……もしあの子の首から下が見つからなかった場合、あの子の身体はどうなるんですか?」
「その場合は、新しく作ることになるわね。首から下のボディは、直しきれない壊れ方をした時や、単純に取り替えたい時のために、替えを作ることがあるもの。買いたいって言えば、普通に手に入るわよ。《魔女の夜市》でも売っていたでしょう?」
「ええ、足や手などがバラバラで売られてました」
「頼めば頭以外丸ごととか売ってくれるわよ」
なるほど、と言いながら焼き菓子を口にする。おいしい。《魔女の夜市》で見かけたのは腕や足、球体関節などを細々と買って、元の《ドール》のパーツを組み替えていくためのものが多かった。後は、頭や核まで全部一揃いになっているものだった。その気になれば、結構どうとでもなるらしい。
「僕、あの子がどうなるか心配なんです。でもお優しいマスターなら、あの子をきっと可愛がってくれるだろうなって」
「期待が大きいわね。あの《ドール》はちゃんと本来の持ち主が現れる可能性もあるけれど、現れなかったらちゃんと面倒見てあげるのよ。ルイスの期待を裏切らないようにね」
「わかっています。まあ、100年後になるかもって言ってましたが……」
《天秤の魔女》に選ばれるような魔女達は、実はかなり年を取っていることが多い。それでさらっと100年という言葉が出るのだろうと、私は思った。
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