第226話 クロスステッチの魔女、己の《ドール》を組み立てる

「さて、そろそろパーツも乾いたと思うからルイスを組み立てておやり。これも試験だ、全部自分の力でイチからやるんだよ」


「わかりました、お師匠様」


水分はすべて綺麗に乾いて、お日さまの光とその偉大な力の一端を取り込んだルイスのパーツ。それらをすべて家の中に持ってきて、用意のできた魔法糸と並べる。白く綺麗に仕上がった糸は、十分な長さがある。


「ルイスのパーツ……まずは、頭だよね」


目も外してあるから、まずはそれを嵌め込む。魔法糸を引っ掛けて、首の部分から出す。首のパーツを見つけて、糸に通した。魔法糸は長いから、途中で絡まないように慎重にする。胴体もすぐに見つかって、糸を通して繋げた。魔法ひとつで簡単にできるけれど、自分の手でバラバラになった部品を繋ぎ合わせるのは悪い気分ではない。

 二の腕のパーツふたつ。見た目はほぼ同じに見えるけど、なんとか判断をして左腕の方を先に糸に通した。複数転がっている球体関節をどうするのかはとても悩ましいので、ひとつひとつの球体を腕の先端に当てて、大きさを確認する。


「う――――――ん……」


肘、膝、手首、足首と、球体関節になっている部分はいくつかある。それらの球体がうまく噛み合うことによって、《ドール》の体は動くのだ。球体関節が滑らかに動くように、少しだけ魔綿の実を絞って採った油を塗ってある。魔力はあまりないけれど、サラサラしていて料理にも使える油だ。あんまり油自体にクセがないから、重宝する料理人も多いらしい。たまに魔女から買い取る人がいるそうだ。

 とにかく穴の開いた球体をうまく噛み合わせようとしながら、しっかり合うものをなんとか探すことができた。腕を見つけて繋げ、手首になる球体を見つけて通して、自分の手を参考に右手と左手を判断。左手の中にある鉤に魔法糸を引っ掛けてから、手首、腕、肘、二の腕と魔法糸を戻していって、少しキツめに締めた。


「えっと、次は左足よね」


 手順を時々口に出して確認しながら、左足の太腿を見つけて繋げる。膝の球体関節を見つけて、糸を通す。左のふくらはぎ、足首、左足を見つけて繋げ、腕と同じように魔法糸を戻していった。きゅっと締めた後、今度は右足を同じように組み上げた。ルイスは右の太腿にも先代の持ち主が刻んだタトゥーがあるから、判断がしやすい。


「……よし、後は右腕だけね」


右の二の腕は、私の目の前でタトゥーが刻まれたからわかりやすかった。残ったパーツを集めて同じように組んでいき、最後に締めて頭のところに繋げる。


「お師匠様、できました。ルイスを起こす前に、見てくれませんか」


まだ瞼を閉じさせたままにしていたルイスをお師匠様に見せると、ふむふむとあちこち確認されて「あってるわよ」と返された。ちゃんと組み上げることができて、本当にうれしかった。

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