第220話 クロスステッチの魔女、新しい子を迎える可能性を喜ぶ

「こういうことってやっぱり、捨てたいからするんですか?」


「そういうことが多いですねぇ……嘆かわしいことです」


「あまりに悪質と判断すれば、降級処分もあります。貴女様方は御自分の娯楽のためにリリィ達を生み出したのですから、相応の責任を取っていただかなくては」


「リリィ、口が悪くてよ」


 ガヘリア様がいくつかの魔法で隠していた布と《ドール》を調べたものの、どうやら目ぼしいものは見つからなかったらしい。彼女の魔法を編まれた毛糸の袋に、《ドール》の頭と布がしまわれた。それらが捨てられていたところに、代わりに小さな毛糸が置かれる。それは魔力の線を引き、《天秤の魔女》の徴を浮かび上がらせた。《魔女の刻印》、相応の手順を踏まないと消えない証だ。本来は制作者のそれが、《ドール》にも刻まれている……ルイスとこの子には、なかったけれど。


「この子については、いったん《天秤の魔女》で預かります。元の持ち主が見つかって所有権放棄をされるか、規定の年月が過ぎても持ち主が現れなかった場合、クロスステッチの四等級魔女が所有を希望していた旨を記録します。こういう《ドール》を引き取って投げ出した場合は処罰がありますが、それでも構いませんか?」


 恐らくはそういう決まりなのだろう、淡々と言ったガヘリア様に私は迷わず頷いた。投げ出す気なんてあったら、そもそも引き取りたいだなんて言わない。


「その言葉を忘れたら、わたくし、承知しませんよ!」


「大丈夫です、僕のマスターは中古で投げ売りされてた僕を買って直してくれたんです。マスターなら、あの子の体が結局見つからなくても愛してくれますよ」


 ルイスはどこか誇らしげにそう言って、リリィに歯車の方の目を見せるように髪をかき上げた。


「魔力がなくて、片方の目もなくて、魔法糸もボロボロの僕を買って、直してくれたんです。この歯車の目は、マスターがくれた僕の新しい目です」


「最初の《ドール》はちゃんとした工房製にしろって言ったのに、この子はまったく言うことを聞かなかったからね……」


 お師匠様の補足に、ガヘリア様は頰に手を当てて「あらあら」と微笑まれた。


「本当に、《ドール》想いのお嬢さんなのですねぇ。それなら、安心です。もしかしたら規定より早く、お渡しできるかもですし……水晶を教えてくださいな」


「はい、こちらです」


 話ができるように私とガヘリア様の水晶の波を交換しながら、そうだ、と気になったことを聞いた。


「規定って、何年なんですか?」


「普通の物なら50年です。《ドール》は100年くらいありますがぁ」


「長い……」


「それは、若い証ですねぇ」


 そう言って、ころころとガヘリア様は笑われた。

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