第218話 クロスステッチの魔女、怪しすぎる《ドール》のパーツを拾う

 ルイスが私に見せに来たのは、《ドール》の頭のパーツだった。瞳も髪もなく、ただ、ヒビが入って土で汚れた頭のパーツだけがある。空っぽの眼窩や、取れたまつげでは、性別さえもわからなかった。


「何か、この布で隠すように捨てられていたんです。マスター、この子を助けてあげてください」


「ちょっと待ってね。頭だけだから、首から下をどうするか……それに、この布も何かありそうだし」


 ルイスをなだめながら、ルイスが指差した布に触れる。弱い魔力を感じるけれど、どちらかと言うと魔力が弱いというより、魔力を隠すためのものだった。つまり、この捨てられている子を隠したかったのだ。そもそも、《ドール》を廃棄する際にこのようなことは許されない。完全に《ドール》を捨てて消してしまいたい場合は、核を抜いて体を細かい粉になるまで破壊する決まりだったはずだ。核は核で、適切な処分方法が決まっている。何せ、人間の魂のカケラなのだ。元の人間が死んでいることだってある。だから、相応の滅ぼし方が必要だった。


「ルイス、アワユキ、この辺りに他のパーツがあるかまず探してみよっか」


「わかりました」


「はーい、この魔法の感じね!」


 ふわふわと飛んで消えていった二人を見送りながら、水晶を出してきてお師匠様に連絡を取ろうとする。コツコツ、と決まった拍子で叩きながら、お師匠様の水晶を呼び出した。


「お師匠様、クロスステッチの魔女です。妙なものを見つけてしまったので、こちらに来ていただくことは可能でしょうか? できれば、《ドール》の修理道具とかを持ってきてほしいです」


『お前は本当に、変なことにばかり巻き込まれるねえ……水晶の上に《虚ろ繋ぎの扉》を繋げるから、場所をお開け』


 どこか呆れたようなお師匠様の声が聞こえて、水晶の中に姿が見えた。慌てて水晶を草の上に置くと、その上に刺繍の縫い目が現れた。お師匠様の《虚ろ繋ぎの扉》が、私の水晶の上に繋がったのだ。すぐに、お師匠様の姿が見えた。


「魔女になる時に数奇な星の生まれの子だと読んだけれど、ここまでだとは思っていなかったよ。で、何を見つけたんだい」


 お師匠様にそんなことを言われながら、「今回はルイスが見つけたんです」と《ドール》の頭と隠すための布を見せた。お師匠様が少し険しい顔になって、頭を拾い上げる。


「これは……核を抜いて、バラバラにされたんだね。なんてまあ、惨いことをするんだい。多分、誰かが手放したいけど、完全に捨てるのが惜しくてこんなことしたんだろうよ。核は大方、本人が持っているんだろうね」


「何がしたいんですかね……?」


 さあね、と言っているお師匠様と私の元に、ルイスとアワユキが戻ってくる。残念ながら、他のパーツは見つからないとのことだった。

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