第214話 クロスステッチの魔女、お仕事を増やす

 《魔女の夜市》が終わった後は、組合に依頼が増える。新しい《ドール》のための糸や布を求める魔女や、売れた分の在庫補充に素材集めを外注する魔女がいるからだ。依頼が増えるけど同じくらい、お金を使いすぎて依頼を受けたがる魔女も増える。


「受けられた依頼は、魔兎の革が3羽分と……魔綿糸が2かせ、あとは幽霊蜘蛛の巣、ね。近くの森で大体は集まりそうなものが選べて、よかったわ」


「僕もアワユキもお手伝いしますね、マスター」


 頼もしいことを言ってくれたルイスの頭を撫でてやりつつ、組合で受けた仕事の詳細を書いてある羊皮紙をカバンに入れた。魔女組合は依頼を出したい魔女、受けたい魔女、報告をする魔女で今日も賑わっている。

 魔女としての等級が、そのまま受けられる仕事の難易度に直結して依頼板に貼り出されている。だから、私が受けていいのは青く塗られた板に貼られた仕事だけだ。ここから紙を持っていってもいいし、受付に聞いたら斡旋してくれることもある。


「マスター、どうしてこの青い板は一番大きいんですか? 四等級の魔女様方が受ける仕事を貼ってる場所、でしたよね」


 上の魔女様を信頼して任せたい、とかではないんですね、と言いながら、ルイスは板を見ていた。採取、糸紡ぎ、機織り、昆虫の捕獲、様々な仕事が貼られては消えていく。そのどれも、あまり難しくないものだ。難しいものなら、そもそもここには貼られない。


「どんなに偉い魔女でも、糸と布は必要よ。魔法をかけるようなものでなくても、それらを事欠くことはできない。でも、はっきり言って面倒。そういう時に、私達四等級に仕事を降ろすのよ。四等級の弱い魔法なら、ご自分の魔法で上書きも容易いしね。あとはとにかく数がいる時かしら。わかりやすいのが、今日も依頼が貼られてるグース糸の魔女ガブリエラ様からの鳥の羽あつめね」


 なるほどなるほど、と言って、私の腕から飛び出したルイスがふわりと大きな依頼板の上の方を見にいく。貼って剥がしてを繰り返す普通の依頼と違って、ガブリエラ様からの依頼はずっとある依頼だからか上の方に貼られていた。その隣にある依頼も、同じようにずっとある類のものだろう。


「ルイス、その隣にあるのは何かしら。糸集め?」


 魔綿糸はよく依頼があるけど、あれは依頼人がみんな違うから下の方に貼られる依頼だ。四等級になりたての若い魔女もよく受けているし、出している。だからそういう、大量の糸を使う魔女がずっと出している類かと思ったのだけれど、ルイスは首を横に振った。


「いえ、これは……そういう依頼ではなさそうです」

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