第211話 クロスステッチの魔女、《ドール》の店も見に行く

「……この辺りの店は、妙なものばかり売ってる」


 《魔女の夜市》のとある一角に差し掛かったとき、"三番目の雛"は怪訝そうな顔でそう言った。そうかな?と思って周りを見回してみて、気づく。この辺りは《ドール》のパーツを売る小さな店が並んでいるから、色硝子の目玉だの、手首から先だの、爪だの、足だの、首のない胴体だの、髪の毛だのが置いてある。もちろん、すべて《ドール》の物だ。お師匠様の工房とかで私は見慣れているし、ルイスも気にしている様子はなかった。"早く飛ぶ翼"も、こういう場所のことは知っているのだろう。驚いた様子はない。


「マスター、あれらは壊れてしまったものを変えるためにあるんですか?」


「勿論それも大事だけれど、それだけじゃないわ。色や気分によって、変えたがる魔女もいるのよ」


 私は今のルイスを気に入ってるから、こういった場所は軽く見るだけのつもりだった。でも、じっくり見てみるとこれはこれで面白い。


「なになに……? 《精霊鎧装》シリーズ、新作です。精霊石の粉を練り込んで焼くことで、ヒトガタから外れた美を貴女の《ドール》に。へぇ~」


 店によって、やはり特色はいくつかあるようだった。例えば今足を止めてる店では、《ドール》に鹿のような足をつけたり、狼のような爪の手をつけることができるらしい。普段は単なる飾り程度のものだけれど、魔力を込めてやれば見た目相応の物になる、らしい。使わないなら、そもそも普通の手足にしておいて、必要な時だけ組み替えてもいいのだろう。体を組み直せるのは《ドール》達の売りのひとつだし、彼らがその際に痛みを感じることもない。


「どうだい? 獣や精霊の力を借りて、あんたの《ドール》をもっと魅力的で強い子にしてやれるよ」


「気にはなるけど、他も見たいの。だからこれだけもらっていくわ」


 《名刺》として店主の魔女から小さな頭飾りを受け取る。白い羊の耳の形をしていて、ルイスの銀色の髪に似合いそうだった。


「精霊と獣の力を借りることは私達もやるけれど、こんな形ではない」


「私も初めて見たかも」


 ルイスに羊の耳をつけてやると、やっぱりかわいかった。魔力を込めていないから、今はただの飾りだ。


「《名刺》とはいえ多少は魔法でなければ、魔女の名折れだからね。魔力を込めると、少し今より耳が良くなるよ。もっと耳のよくなる魔法が欲しかったら、その時はうちで買い物をしていって頂戴」


 わかりました、と言って露店を見回してみると、まだまだ楽しめる場所が沢山ありそうだった。

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