第208話 中古《ドール》、人から見た自分のことを知る

 僕は《魔女の夜市》を歩き回るマスターのカバンから顔を出して、マスターの様子を見ていた。楽しそうに夜市を歩いて、お姉様の魔女様や、《トリバネ》だという他の魔女様と話をしていた。マスターは彼女達の仕草に対して懐かしく思っているらしく、時折、懐かしいものを見る目で二人を見ていたような気がする。素朴な服は似合うかもしれないけれど、僕はマスターの今の綺麗なワンピースの方が似合うと思った。もっと布を沢山使った服を着ても、マスターはきっと似合うだろう。なのに彼女は、僕達にばかりお金を使うのだ。今日もそうなりそうだった。


「ルイス、これも着てみてくれる?」


「マスター、本当に楽しそうですね」


 黒い燕尾服や黒い礼服など、マスターは僕の銀の髪に黒い服が似合うと言って色々と着せていた。他にも《ドール》を連れた魔女達がこのお店には来ていて、それぞれに自分の《ドール》へ服を着せたり買ったりしている。そんな中で何人か、僕を見てぎょっとしたような顔をする魔女や《ドール》がいた。理由は、僕自身でもわかっている。


「あの子、顔が綺麗なのにあの刺青……」


「普通そうな顔の魔女なのに、変わったものを入れるのね。取れないものをつけるだなんて」


 こそこそ、と祭りの喧騒の中で時折、囁く声が聞こえて来た。僕の腰や太腿には、前の持ち主がつけた花と蝶の絵柄の刺青がある。だから多分、余計にあの薄暗い店の中で僕を迎えに来てくれる人はいなかったのだ。マスターは物好きで優しい人だから、そんな僕を憐れんで買ってくれたし、だからこそ出会えたとは思っているけれど。

 やっぱり、こんな刺青があるのは相当な欠点になるらしい。マスターが僕に着せる服の趣味には、実際に似合わないし。


「マスター、マスターは服を買わないんですか?」


「えー、私はルイスとかの服を見てる方が好きなのよ」


「ずっとお店にいて試着を続けるのも、迷惑をかけてしまいます」


 僕がなんとかそう言って試着をやめさせようと説得すると、マスターは黒いブラウスと革製の剣帯、星を模した銀色の飾りがついた紺色の服一揃いと靴を鼻歌歌いながら買っていった。一番欲しそうにしていた燕尾服一式は、金貨が何枚もかかる高級品なので諦められたようだった。


「あの燕尾服はかっこいいけど、ルイスがもう一人買えるお値段だからまた今度だね……」


「マスター、僕はマスターとずっと一緒にいるから、あんな素敵な服を着て改まった場に行くことはきっとありませんよ」


 ずっと一緒にいたくて、マスターの服の端を掴みながらそう言う。するとマスターは「私がそういう場に行けるような魔女になった時は買うからね、一緒に来るのよ」と言って、笑みを浮かべられた。

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