第183話 クロスステッチの魔女、二度寝の内緒話をする
翌朝。私が目を覚ますと、ルイスは私のベッドのサイドテーブルに乗せられた小さなテーブルで目を覚ましていた。木窓からは小さな光が射し込んでいて、もう日が出ているとわかる。薄暗がりの中で他の子達の様子を見てみれば、アワユキとイヴェットはまだ自分達のベッド(というより、籠や箱)で丸くなって眠っていた。かわいい。
しー、と唇に立てた人差し指をあててルイスに仕草をしてやると、彼は自分の口を小さな手で抑えてこくこくと頷いた。日差しの角度からして、少し私達も普段より寝過ごしたらしい。今日は急ぐ理由もない、というか大体において私は時間の制約の薄い暮らしをしているから、朝早く起きるのは元からの習慣でしかないのだ。
「ルイス、おいでおいで」
そう思ったら、途端に朝寝がしたくなってきた。ルイスを小声で呼び寄せると、彼はどこか遠慮しがちな顔をして私のところに飛んできた。最近はアワユキやメルチ、イヴェットもいて、ルイスに構いきれなかったかもしれないな、と思いながら、私はルイスを抱っこしてもう一度布団に潜り込む。
「ま、マスター!?」
慌てた様子のルイスを抱えて、さらさらとした髪を撫でる。ついでにパッと見、傷がないかを確認した。……うん、元気そう。ある程度は砂糖菓子を食べさせれば治るとはいえ、前にお腹にひび割れを作っていた前科もあるし。
「ルイスはアワユキのいいお兄ちゃんだし、メルチやイヴェットにもよくしてくれてありがとうね。こういうのはちゃんと言っておかないとだから、こっそり言わせて」
「……なんだか恥ずかしいです、マスター。僕、そんなに大したことはしていませんよ」
「いいのよ、私がこうしたいんだもの。してもらったことを当たり前と思わず、お礼を言うのは大切なことなの」
こそこそと話すのなんて内緒事を話すようで、あんまりやったことのない私はそれだけで楽しい。ルイスを撫でてやりながら話すと、しばらく恥ずかしそうにしていたルイスがこっそりと私に言ってきた。
「あの、それでしたら、僕はマスターに何度も何度もお礼を言わないといけません。お店にどれくらいあったのかは覚えてませんが、ボロボロになっていた僕を買ってくれる人なんていないかもって、ぼんやりとそう思っていたんです。でも、マスターが僕を買ってくれました。僕のことを綺麗にして、新しい目をくれました。それがどれほど得難いことなのか、僕はなんとなくわかるんです」
小さな手が私の髪を掬って、キザな仕草で口付けた。どこで覚えたんだろうこんな仕草!
恥ずかしさを誤魔化すように抱きしめて目を閉じれば、後はお昼までぐっすりだった。
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