第179話 クロスステッチの魔女、資材整理をする
「ねえイヴェット、イヴェットのことって、あんまり外に連れ出したりしない方が言い?」
「そう言われました」
「じゃあ、お買い物は今度にしないとね。その前に何が必要なのか、書き出したりはしておくべきか……」
そんなことを考えながら、イヴェットが来て人手がある分整理をしようと決める。《発火》ができたから、次は残った資材を出してきて《浮遊》を作ることにした。綿雪虫の羽、魔綿の実、鳥の風切羽を合わせた糸で、イヴェットの大きさと重さに合わせた羽の模様を空色のリボンに刺繍する。
「イヴェット、こちらにおいで」
「はい」
出来上がったリボンをイヴェットの腰に結んでやると、少しその体が浮いた。つま先が少し浮く程度で、想定通り飛びすぎたりはしていない。無表情の中に、微かな驚愕の色がある。ルイスがイヴェットの元に飛んできて、《浮遊》の魔法のリボンをしげしげと眺めていた。
「マスター、この魔法って僕のように飛んだりできるんですか?」
「ルイスのジャケットほどは、自由自在とはいかないかな。浮いていて、落ちて怪我をしないだけ。だから、イヴェットの移動はちょっと手伝ってあげてね」
「はい、わかりましたマスター」
空を自在に飛ぶ魔法を作れるなら、ルイスに私からあげている。足をその方向へ動かせば、空中を少しだけ歩くことはできる程度だ。たまに私も使う。割れ物を壊してしまった時、その破片で怪我をしないために浮くのは意外と馬鹿にならないのだ。あと、箒から落ちた時の怪我軽減。
ふよふよと浮いているルイスとイヴェット、「アワユキも遊ぶー!」と絡んで来たアワユキの三人を連れて、資材整理に入る。大体の荷物は素材名を書いたタグを張っていたものの、あれやこれやと掘り出しているとそれ以外のものも大量に出て来た。
「マスター、これなんですか?」
「主様ー、これなーに?」
「クロスステッチの魔女様、これはどこにしまえばいいですか」
「あー……ちょっと待ってね……」
思ったよりも大量にあった。買ったりもらったりした覚えのあんまりない、何に使うつもりで用意したかもよくわからない素材たちが。《ドール》達に三者三様に指示を仰がれ、「ちょっと待ってね」と真顔にならざるを得ない。これは大掛かりな整理になりそうだった。
「よし、とりあえず……全部お外に出そうか」
空模様を見れば快晴、しばらくは雨の心配がいらなさそうと見える。だから思い切って、少し前に掃除をしたばかいとはいえもう一回整理した方がいいかもしれない。
かくして、大整理が始まってしまった。
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