第177話 クロスステッチの魔女、家に戻って片づける
「ただいまー」
と言いながら帰ってみたものの、帰りを待ってくれる誰かがいるわけではない。ルイスもアワユキも連れて出かけていたから、当然だ。空を飛べるルイスは、私から降りてそのまま危なげなく着地した。寝ていたアワユキを寝床にしている籠に、そういったものをまだ持っていないイヴェットを机の上に降ろしてやって、ベッド代わりの箱をその横に置く。窓の景色も見える、そこそこいい場所だ。作業机の側だから、食事の支度で汚してしまうこともない。
「イヴェット、箱はここに置くのでいい?」
「はい、構いません」
机の上は毎日掃除しているから、預かりっ子を置いても問題ないだろう。高さだけが少し怖いから、イヴェットには一応気を付けるように言うことにした。
「危ないから、あまり端っこに寄らないでね。落ちたら、きっと怪我をしてしまうから。私、そうしたらあなたを直してあげられないから、不便な生活を送らせてしまうし」
「わかりました、魔女様」
「クロスステッチの魔女、って呼んで」
イヴェットが頷く。アワユキが「くあ」と小さく犬猫のようなあくびをして目覚め、「あれえ?おうちに帰ってきたの?」と言うので、「そうよ」と返してやる。
「イヴェットを三日、うちに預かることにしたの。アワユキも仲良くしてあげてね」
「はーい!」
「それから、グレイシアお姉様から預かった食器も出さないと……」
いただいた箱を開けると、客の《ドール》用だと言っていた食器がいくつか入っていた。平皿がひとつ余計なのは、アワユキに使ってほしいということらしい。入っていたメモに、そう書かれていた。
「アワユキにはこれ、イヴェットはこっちね」
「わあい」
「かしこまりました」
二人に食器をそれぞれ渡して、私は《砂糖菓子作り》の魔法の刺繍で三人のお皿をいっぱいにする。
「クロスステッチの魔女様、これは?」
「いつ食べてもいいように置いてあるの。魔力が足りないのは辛いみたいだし」
「マスターはいつも、瓶にも沢山砂糖菓子を入れててくれてるんですよ」
魔女の砂糖菓子は夏の暑さでもあまり溶けないようになっていて、自分からお湯などに入れなければべたつきもしない。この魔法を作り上げたのがいつの魔女かは知らないけれど、ありがたいものだ。
ルイスが砂糖菓子をかじり始めた様子を見て、真似をするようにイヴェットも砂糖菓子をかじり始める。その様子を見ながら、私は観察日記として渡された紙……ではなく、その下書きとして紙片にイヴェットを見た様子を書き始めた。
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