第131話 クロスステッチの魔女、師の占いを見る

 布に包まれたカードは、お師匠様の占い道具。具体的な質問をすれば、具体的に返してくれるから好き……らしい。私にはさっぱりわからないのだけれど。ちなみにやってみたいと言ったら、『癖が強いから今のあんたには無理よ』と一言で切り捨てられてしまった。砂絵を見るより簡単なように見えて、そうではないらしい。


「メルチのことを占ってあげよう」


 机の上を私とメルチで片付けて、綺麗にする。お師匠様の魔法の邪魔をしないよう、簡単な《汚れ落とし》の魔法を刺繍していたテーブルクロスも取り払った。ないとは思うけれど、占い結果に干渉してしまうようなことがあってはよくない。お師匠様の占いはよく当たるけど、影響が及んで結果が狂ってしまうのは避けたかった。

 お師匠様がカードを包んでた布を広げると、金や銀のリボンと糸で刺繍がびっしりと施されていた。左右にわざわざ香り蝋燭をつけたから、その仄かな香りが机を包む。


「カードの占い、ですか? 姉様のとは違うんですね」


「でもマスターが占いに使っていたお道具より、魔法の力が強いような気がします」


『ぴかぴか光ってるのー!』


 魔法の感知能力が前から高いと思ってたルイスの感想は予想の範囲内だったけれど、精霊であるアワユキには何か別のものが見えているようだった。どう光って見えるのか、少し気になる。


「メルチの庇護求めて魔女の門叩きし娘、汝、知りたいと望むことは何なりや?」


 お師匠様がカードを切り混ぜながら聞く。これは、占われる当人が答えなくてはならない決まりなのだと昔に言われたことを思い出した。だから私ではなく、メルチが答えなくてはならない。不安そうなメルチに頷いて、答えるように促した。


「では、私は……私は、魔女になるのかならないのか、教えていただけますでしょうか」


「髪を一本。其を以て契約とする」


 メルチは束ねてる金髪を一本抜いて、お師匠様に渡した。本来なら自分の一部を簡単に他人に、特に魔女に渡すのは危険なのだけれど、今回は多分占いに使うから必要なものだ。

 お師匠様は受け取った髪の毛でカードの山を一度ぐるりと囲み、利き手である右の手首に結んだ髪の毛を巻く。それからもう一度、何事かを口の中でぶつぶつと唱えながらカードを右手で切り混ぜた。目を閉じてカードを上から何枚か取り出し、裏返したまま並べる。


「この三枚のカードから、示していることを読み取ってあんたの問いに答えよう」


「よ、よろしく、お願いします」


 メルチはカード占いを見るのが初めてなのか、少し緊張した様子だった。

 そして、カードがめくられる。

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