第79話 中古《ドール》、新しい靴をもらう
ここ最近、マスターが何やら僕に隠し事をしているのは知っていた。僕のマスターは、彼女自身が思っているほど、隠し事が上手くない。それを、本人は知らないのだ。僕は彼女のそんなところを、美徳だと思っている。嘘が上手い人は、いい人ではない……という、不思議な確信があった。きっと、人間だった頃に何かがあったのかもしれない。だから、素直なマスターといるのは心地が良かった。
(マスター、何をしてるのかな。僕にいつか、教えてくれるかな)
どうして隠されるのかもわからない。不安はあるけれど、彼女に悪意があるようには見えなかった。何というか、彼女はそれほど難しいことができないだろうと思っているのだ。馬鹿にしているわけではなく、純粋な人に見える。すぐに笑って、ちょっと怒って、楽しそうに暮らしている人。箒に乗るのは下手みたいだし、実際に僕と暮らしている間に一緒に乗るとよく急加速したり墜落しかけていたりしたけれど……。僕には、彼女しかいないのだ。今までも他に何人かの魔女と会って、彼女達の《ドール》とも会ってみたものの、例えば彼女以外の魔女の《ドール》になりたいとかを思ったことはないのだ。
「僕は、マスターを守れるようになりたいし……こうやって剣を振るうのは、何か、とても、懐かしい、気がします」
教わった通りに剣を振るっていると、考え事の中に沈み込んでいけるのが心地がいい。思考に没頭できる、というか。前からきっと、こうしていたのだ。ずっしりと重たい剣を早く実戦で役立てたいという想いと、もっと訓練を続けていたいと言う想いの二つが僕の中で蠢いていた。けれど結局、例えば魔物が襲ってくるとかがあるわけではなく、害獣が出るとかでもなく、淡々と剣を振るうだけでその日も終わってしまった。
「ルイス、ルイス、最近離れてもらってたものが完成したの。こっちにいらっしゃいな」
「はい、なんでしょうかマスター」
その日の夜、僕はマスターに呼ばれて彼女の元に来た。じゃじゃーん、と言って彼女が出してきたのは、栗色の革靴。赤い糸の縫い目が鮮やかで、小さな―――僕のための靴だった。紐で結ぶ形のものではなく、すっぽりと履く形の靴のようだ。
「私も、私の刺繍したものをあげたかったの。ね、ね、履いてみて」
「はいっ!」
僕はマスターが贈ってくれた、綺麗な靴を履く。マスターが買ってくれた靴も綺麗だけれど、マスターが作ってくれた靴の方が百倍も千倍も好きになる。靴の大きさも僕にぴったり合っていて、丁寧に鞣されただろう革も心地よかった。
「マスター、僕、この靴をもらえたのがとっても嬉しいです! ずっとずっと、大事にしますね。汚さないように丁寧に扱います」
「靴や服は消耗品に近いの、汚れる時は汚れるんだからね」
「えー……」
僕はマスターの靴を汚すなんてしたくないと思いながら、僕は靴を何度も撫でていた。
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