第72話 クロスステッチの魔女、洞窟を見つける
「ねぇ見て、これ、洞窟じゃない?」
「うわぁ、ホントやね!」
山肌に私が見つけた洞窟を二人で覗き込む。魔女が二人、立って入れる程度の広さはあるようだった。石……に見えるが、少し煌めきが見える。何か、普通の石とは違うものも混ざってるのかもしれない。好奇心がウズウズした。
「ね、ね、洞窟探検できそう? 灯りとかある?」
「灯り石はある。いつも掘り出すために、簡単なツルハシは持っとるよ。後は……こういう時の王道は、紐やね。辿っていくための紐」
「こういうのでどう?」
私は手持ちの糸の中で一番に長く、丈夫な糸を取り出した。革を縫い合わせるのに使う、琥珀蜂の蜜蝋で磨いた魔絹の糸だ。多少石に擦れたくらいでは切れないし、よく伸びるし、しなる。革細工も覚えなさい、とお師匠様からこの白い糸を一巻きもらっていたのだ。
「ほえー、さすがや。よし。ほなこれをこうして、っと」
糸巻きの端っこを石にくくりつけ、それを洞窟の入り口の割れ目に固定した。しばらくグイグイと引っ張り、外れないことを確認。その横で、歯車細工の魔女が淡い黄緑色の石を取り出して呪文を吹き込んだ。ぽう、と淡い光を発するその石は、私が持ってる灯り石よりも大きくて頼りになりそうだった。
「あ、あのマスター、行くんです? 行っちゃうんです?」
「マスター、今回の目的に洞窟の探査は入っていなかったと具申します」
《ドール》二人……特にルイスの困惑した顔が、灯り石の淡い黄緑に照らされる。確かに予定外の冒険だけれど、すでに好奇心に火はついてしまっていた。
「大丈夫よ、そんなに遠くまで行かないもの。というか、行かないもの。ねぇ?」
「せやな。うちら地図もあらへんし、糸の余裕があるうちに帰ればいいし」
「ここは四等級魔女だけでも立ち入り可能な、平和な山だもの。その中の洞窟だけ危ないとかも、聞いたことないし」
「本当ですかぁ……?」
私の意見に疑問を挟みたがってる様子のルイスと、一度具申した後は淡々とマスターについていくつもりのアウローラを見比べると、やっぱりうちのルイスが特殊と言われた理由に少し納得できた。もっとも、こうして自我が育ってることを私は悪いことだと思わない。ただ自分に追従するだけの存在に囲まれて暮らすのは、少し怖い気がするのだ。お師匠様やお姉様達の《ドール》を思い出してみると、そのうちアウローラも歯車細工の魔女に口を挟めるようになるのかもしれないけれど。
「少し覗いて戻ってくるだけよ。大丈夫、大丈夫」
そうルイスに言いながら、念の為に飛んでおくように言いつけて砂糖菓子を何個か食べさせる。
「楽しい探検の始まりやね!」
灯り石の光の中で、私の友達は楽しそうに笑っていた。
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